日本総合健診医学会 第41回大会・シンポジウム3 性差からみた総合健診腎臓内科から見た健診の問題点 検尿異常とクレアチニン
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
生命恒常性維持のために、腎は全身循環の20%に相当する血流量(毎分 1L)を供給され、生体に必要な物質のみを再吸収する使命が与えられている。100mL/分の糸球体濾過から 1L/日の尿しか生成しないという144倍の尿濃縮力に基づくリサイクリング・システムが、結果として効率的な老廃物の除去機能となっている。そのためには腎の複雑な解剖学的構造は不可欠であり、ブドウ糖、アミノ酸など生命活動に必須な物質の99%が近位尿細管で再吸収される。 近年、慢性腎臓病(CKD)治療の重要性が認識され、腎機能低下は心血管障害に関連する「心腎連関」が注目されている。このメカニズムとして東北大学の伊藤貞嘉先生が提唱するStrain vessel theoryは明解で、腎の特殊な血管構造は脳・心の血管構造に酷似しており、糸球体腎炎ない症例において尿タンパクがあれば心血管障害のリスクである。CKD診療ガイド2012でも、推定糸球体濾過量(eGFR)による単純な腎機能低下のみならず尿タンパク排泄量も心血管イベントの危険因子であると認識された。一方、タンパク尿のないCKD合併高血圧症には、従来提唱されていたレニン・アンジオテンシン系阻害薬を第一選択とするのではなく、虚血予防の観点から長時間作用型カルシウム拮抗薬などを組み合わせ、個々の症例に応じた治療設計が推奨された。 更に適切な薬物療法の実践には正確な腎機能の評価が重要である。現在、血清クレアチニン値を用いたMDRDのeGFR推測式が一般的であるが、高齢者、女性、子供、長期臥床者、下肢切断者等の筋肉量の少ない症例では実際の腎機能を過大評価する。そこで近年、より実測に近いシスタチンCを用いたeGFRの推測式が提唱されている。 このように腎疾患診療においては性差に基づく腎機能補正も念頭に、クレアチニン値、尿タンパク(アルブミン)排泄量、シスタチンC等を用いた適切な腎機能評価を行い、早期腎障害の発見のみならず心血管障害予防のリスク管理、適正な薬物選択を行う必要がある。