なぜ,乳牛は分娩後に低カルシウム血症に陥りやすいのか?
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概要
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分娩後の数日間は急激な泌乳開始に伴ってカルシウム(Ca)要求量が増加し,ほぼ全ての乳牛において血中カルシウム(Ca)濃度は低下する(低Ca血症).この低下が著しい乳牛では,産褥麻痺(乳熱)と呼ばれる弛緩麻痺を特徴とする起立不能症候群を発症する.生体には低Ca血症に反応して骨のCa再吸収や腸管のCa吸収を増加させ,Caの恒常性を維持する機構が備わっている.しかし,分娩直後の乳牛では骨からのCa再吸収は抑制されるため,腸管からの吸収に強く依存している.乳牛では分娩前日に骨吸収抑制因子の一つであるエストロジェンの血中濃度が劇的に増加し,乳熱の発症リスクとして関与することが示唆されている.飼料中のCaは,受動輸送あるいは能動輸送によって粘膜上皮を通過し吸収される.Ca要求量が増加する妊娠や泌乳の期間中は,能動輸送が腸管上皮でのCa吸収の主流となる.Ca結合タンパクの一種であるcalbindin D9k(CaBP9k)は細胞質内でCaに結合し迅速に拡散させる作用を有し,粘膜上皮におけるCaの能動輸送で重要な役割を果たしている.乳牛の消化管においてCaBP9k mRNAは十二指腸に限局して発現することから,小腸近位部が粘膜上皮における能動輸送の主要部位であると考えられる.このことは,乳牛の腸管におけるCa能動輸送がラット等の単胃動物と比較して限局することを示している.CaBP9k mRNAの腸管発現量や血中の骨代謝マーカーならびに1,25-dihydroxyvitamin D3濃度は,牛の年齢とともに減少することが示され,加齢が乳牛の分娩性低Ca血症の重要な誘因の一つと考えられている.