六価クロムおよび三価クロムと反応したフミン酸に対するIRおよびXANES分光学的研究
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概要
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土壌中の腐植物質による六価クロムの還元反応をよりよく理解するために,フミン酸を六価及び三価クロムと反応させ,それらを赤外分光法およびX 線吸収端近傍構造( XANES) を用いて特性解析を行った.六価クロムによって酸化されることで,腐植酸中のアルデヒド基,ケトン基,カルボキシル基が増加することが期待される.しかし,これらの官能基に該当する赤外吸収スペクトルバンドに有意な強度の増加は認められなかった.六価クロムによって酸化された腐植酸の赤外吸収スペクトルは,三価クロムと反応させた腐植酸のスペクトルに類似していた.つまり,今回の実験条件下では,酸化還元反応の前後でクロムの結合に関与する官能基の種類または量に大きな変化がない事を示している.六価・三価クロムと反応させた腐植酸の赤外吸収スペクトルには,3,400 cm-1,1,608 cm-1,1,384 cm-1 の吸収強度が増加し,1,707 cm-1 や1,236–1,250 cm-1 の吸収強度が減少する傾向が認められた.これらの特徴から,クロムは2 つの異なる結合形態を持っていると考えられる.すなわち,水和したクロムが腐植酸に外圏錯体として結合しているものと,腐植酸のカルボキシル基と内圏錯体として存在しているものである. 次に,クロムのK 吸収端XANES スペクトルを測定したところ,六価から三価に還元されたクロムが腐植酸と結合することが明らかになった.実験溶液中の六価クロム濃度の変化の違いによるXANESスペクトルの変化は認められなかった.これらの結果は赤外スペクトルの特徴と一致する.赤外スペクトルによって示唆された2 種類の結合形態の割合は,XANES スペクトルを用いることで定量的に見積もることができ,水和したクロムイオンが静電的に腐植酸に吸着した割合が50 %,腐植酸中のカルボキシル基と結合したクロムの割合が50%であった.しかし,実験溶液中のpH が高くなるにつれ,一部のクロムが水酸化物として沈殿することも明らかになった.そのため,水酸化クロムの沈殿を避けるためには,pH をより低くする,クロムの濃度を下げるなど注意が必要である.
著者
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津野 宏
Faculty of Education and Human Sciences, Yokohama National University
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太田 充恒
AIST, Geological Survey of Japan, Institute of Geology and Geoinformation
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鍵 裕之
Geochemical Research Center, Graduate School of Science, The University of Tokyo
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野村 昌治
Photon Factory, Institute of Materials Structure Science, KEK
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岡井 貴司
AIST, Geological Survey of Japan, Institute of Geology and Geoinformation
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柳澤 教雄
AIST, Geological Survey of Japan, Institute for Geo-Resources and Environment