冠動脈バイパス術後, 非閉塞性腸管虚血(NOMI)を生じた1例
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概要
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慢性腎不全, 不安定狭心症の患者に対し, 冠動脈バイパス術を行った際, 膿胸を契機に非閉塞性腸管虚血を発症した1例を経験したので報告する. 症例は63歳, 男性. IgA腎症の悪化により10年前から慢性腎不全となり, 血液透析中であった. 不安定狭心症の診断にて冠動脈造影が施行され前下行枝, 回旋枝と右冠動脈の3枝閉塞病変を認めたため, 全身麻酔下, 心拍動下に6枝冠動脈バイパス術, 肺静脈隔離術が施行された. 術後経過に問題はなかったが, 第9病日, 炎症反応が上昇し, 胸腔ドレーン, 血液培養からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(mechicillin-resistant staphylococcus aureus; MRSA)が検出され膿胸, 菌血症と診断された. 第11病日に敗血症性ショックとなるも, 持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration; CHDF)により血行動態, 炎症反応は一時的に改善していた. 第16病日に腹部膨満感, 腸蠕動音の低下が認められ, 第17病日に, 心房細動から突然, 心停止を生じたため, エンドトキシン吸着を行ったが, 第19病日に死亡した. 経過中に心機能の低下, 腹部膨満の所見, 代謝性アシドーシスの進行を認め, 死因の究明のため剖検を行った. 剖検所見では, 冠動脈バイパスグラフトの閉塞所見は認められなかった. 腹腔内所見としては, 広範囲な小腸壊死を認められたが, 上腸間膜動脈, 腹腔動脈には血栓, アテロームなどによる明らかな閉塞所見はなく, 非閉塞性腸管虚血(non-occlusive mesenteric ischemia; NOMI)と診断された.<BR>MRSA膿胸から敗血症を併発し, septic shockによるhyperdynamic stageとなり臓器灌流障害が進行した結果, NOMIを発生したと考えられた.<BR>高齢, 慢性腎不全などリスクの高い症例では, 敗血症などを契機に血行動態に変化がないまま内臓臓器に灌流障害が進行することがあり, 腹部所見に留意し, NOMIを念頭に早急に対処すべきであると考えられた.
著者
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天野 篤
Department of Cardiovascular Surgery, Juntendo University School of Medicine
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山崎 元成
Department of Cardiovascular Surgery, Juntendo University School of Medicine
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菊地 慶太
Department of Cardiovascular Surgery, Juntendo University School of Medicine
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山本 平
Department of Cardiovascular Surgery, Juntendo University School of Medicine
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丹原 圭一
Department of Cardiovascular Surgery, Juntendo University School of Medicine
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井澤 智明
Department of Cardiovascular Surgery, Juntendo University School of Medicine