『患者さんひとりひとりのために』 トランスレーショナルリサーチ~個別化医療に向けて
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概要
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ゲノムシークエンス技術の革新を受けて,がん領域では個別化医療への取り組み,すなわち,遺伝子変異をターゲットにした分子標的薬の創製,バイオマーカーによる患者さんの診断,診断薬と治療薬の同時開発,分子レベルでのがん疾患の再定義,などの試みが急速に進んでいる.がん細胞の遺伝子変異や標的分子の発現量を指標にしたバイオマーカーで薬効の期待できる患者さんを選び,治療奏効率の高い薬剤を開発することが可能になってきている.一方,効果を見込めない患者さんへは,無用の投薬を防ぎ,より早く別の治療法を提供することが可能になる.また,治療奏効率が高いため,検証試験であるPhase III試験の規模を小さくし,新しい薬剤を早く上市できるという開発上のメリットも期待されている.個別化医療を可能にするためには新しい創薬ターゲットの同定と検証が必要であり,生体システムの理解,分子疫学の推進およびpredictive biomarkerの確立が鍵となる.診断薬と薬剤を同時開発するコンパニオン診断薬という概念が提唱され,診断薬の性能をPhase III試験でプロスペクティブに検証することが求められている.開発初期からバイオマーカー検討に着手する必要があるため,診断薬企業と製薬企業が連携して製品開発にあたることが必要となる.将来的には,診断薬と薬剤が1対1の関係となる'コンパニオン'診断薬から,多数の因子を同時に検査できる網羅的診断法へ進化していくと考えられており,患者さんごとのがん増殖メカニズムに基づいた合理的な治療アルゴリズムの開発が期待される.