日本の国立公園における自然保護ガバナンスの提唱
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概要
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自然保護は環境政策の根幹を担うのみならず,人類の幸福の根源に関わる重要な問題である。自然保護の視点は従来の景観から生態系へと変化し,自然保護地域における問題要因も従来の開発圧や観光等による利用圧に加え,外来種移入問題や気候変動による影響,里地里山におけるアンダーユースなど多様化,複雑化している。これら問題要因に対して,生態学のみならず,法学や経済学の見地からも有用な提言がなされてきたが,これら提言を汲み取る制度枠組みが確立されていない点が課題だといえる。また,複雑かつ高密度な土地利用のなされてきた日本の自然保護地域においては,制度実行にあたり関係省庁や地域住民などの合意形成が不可欠となるが,合意形成メカニズムが確立されていなかったために,問題要因への対処が遅れる例が過去に多く見られた。これらの観点からも,各分野における知見を統合し,政策に反映する枠組みや合意形成メカニズムの研究といった政策学的接近が自然保護には求められていると言えよう。本稿では日本の自然公園制度を例に政策学の視点から「自然保護ガバナンス」という考え方を提唱する。自然保護ガバナンスを提唱するにあたって,1.日本における自然保護地域の種類,2.自然公園制度の性格,3.自然保護における問題要因,4.問題要因に対する方策,の4点を基礎的思考枠組みとして整理する。さらに既存研究から,「主体間連携と順応的管理を可能にする枠組みを備えた管理形態」として自然保護ガバナンスを提唱し,その指標として,(1)連携の質と頻度,(2)命題の共有,(3)市民参加,(4)情報開示,(5)(予防的順応的管理のための)科学的知見,(6)イニシアティブの存在の6点に着目する必要があると考える。また,7節では自然保護ガバナンスの重視する枠組みとして協議会と科学委員会の役割に注目した。協議会の設置は連携強化や命題共有を可能にする枠組みとして期待されるが,その取組には課題も見られることが分かった。一方で,知床における科学委員会の設置は理論的に順応的管理や情報開示を可能にする枠組みとして着目される。自然保護ガバナンスという概念の基礎的理論枠組みを提唱することによって,自然保護研究が注目されることを期待したい。