1950年代における知的障害児の母親モデルの形成
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概要
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本稿では,1950年代に知的障害児の親たちを対象として親の会が行った啓蒙活動に注目し,知的障害児の母親の役割モデルが提示される過程で,特定の母親の手記が果たした役割について検討した.大衆雑誌媒体に掲載されたある手記を通して,読者である親たちは苦悩を共有できる同輩を見出し,育児にかかわる知識・情報・技術を共有するとともに,会へと結集していった.だが,その過程は同時に,個々の母親たちが手記に描かれた親役割を参照しながら,新しい「適切な」行動様式を積極的に学んでいく過程でもあった.手記には,役割モデルを個々の母親に内面化させ,役割の遂行を促進し,同時に他者との比較において自己の実践を評価させる効果があり,そうした実践を通じて母親の役割モデルの規範性が強化されていく過程が明らかになった.この時期に一定の影響力をもった母親の役割モデルは新中間層家庭の主婦からつくり出されたものであり,こうしたモデルが各家庭の諸条件の差異を捨象したまま影響力をもった点で問題性をもつものでもあった.