心不全に伴う不整脈の治療戦略 1.心不全に伴う不整脈の基礎と薬理学
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概要
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心不全では様々なイオンチャネルなどの心臓の興奮伝導にかかわる分子の量的および質的変化,すなわち電気的リモデリングが起きる.心不全の患者や実験動物の心筋細胞では,一過性外向き電流や内向き整流K<SUP>+</SUP>電流などのK<SUP>+</SUP>電流密度が減少し,活動電位幅が不均一に延長する.また,Na<SUP>+</SUP>電流やコネキシンも減少して伝導障害が生じるため,リエントリー不整脈が起きやすい状況となる.さらに,心不全では交感神経の活動が亢進し,心筋型リアノジン受容体の過リン酸化の結果Ca<SUP>2+</SUP>リークをきたし,遅延後脱分極と撃発活動が起きる.心不全に伴う心室不整脈に対して,I群抗不整脈薬は心機能をさらに低下させるとともに伝導抑制を起こすので,その使用は難しい.III群抗不整脈薬についても,さらにK<SUP>+</SUP>電流を抑制することによって早期後脱分極を引き起こし,torsades de pointesを誘発する可能性があるため,その投与には困難を伴う.このように,心不全に伴う不整脈に対する抗不整脈薬を用いたダウンストリームアプローチは明らかに限界がある.そこで,レニン‐アンジオテンシン系抑制薬,抗アルドステロン薬,エンドセリン(ET<SUB>A</SUB>)受容体拮抗薬,β遮断薬を用いて神経液性因子を制御し,心不全に伴う電気的リモデリングを抑制するアップストリームアプローチが試みられる.心不全や心房細動の病態には炎症がかかわり,TNF-αなどのサイトカインやMCP-1のようなケモカインの産生,酸化ストレスが不整脈の発生に関与する可能性もあるので,抗炎症作用を示す薬物は不整脈に対するアップストリームアプローチとなりうる.今後,心不全に伴う不整脈の分子病態がさらに明らかになり,有効な治療法の確立につながることが期待される.
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