カラコルム山脈における最近の地球科学的研究
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概要
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カラコルム山脈 (パキスタン北部), およびその周辺地域を対象とした地球科学的研究 (地理学および地質学) のうち, 1990年以降に主要な国際ジャーナルに発表された論文のリストを作成し, 最近の研究動向を展望した。合計58のジャーナルからリストアップされた132の論文を研究領域で大別すると, 地質学・地球物理学60, 自然地理学(生物地理学を除く)38, 生物地理学 (生物生態学などを含む) 7, 人文地理学 (文化生態学・民族学などを含む) 27であった。温暖化の影響を強く受けやすい山岳地域では, 地球環境科学のベースになる自然地理学的研究の必要性が極めて高いが, そのような学際的な立場に立った自然地理学的研究は多くないことがわかった。今後, 以下のような研究が特に必要となるであろう。<BR>氷河の変動については, 広域のリモートセンシングと精密な野外観測を組み合わせた定量的な把握が重要であるが, 乾燥した中央アジア・パミールとモンスーンの影響を受けるヒマラヤとの関係の中にカラコルムを位置づけた視点が望まれる。永久凍土の融解がもたらす山地斜面の不安定化に対しては, 地表面変動の長期モニタリングが必要である。また, 水資源を山岳氷河・永久凍土に依存している乾燥地域においては, 温暖化によって引き起こされる水循環プロセスの変化が人間生活に決定的な影響をもたらす。涵養域 (高標高地域) と流出域 (低標高地域) からなる水収支の変化を流域単位で明らかにしなければならない。さらには, 地表付近の水環境の変化は, 高山植生や野生動物の生存に影響を与えるだけではなく, 家畜の放牧や灌漑農業といった, 人間活動を含めた山岳生態系全体に影響を与える。したがって, 氷河や永久凍土が存在する高山から, 集落や農地が成立する山麓までを統一的に視野に入れ, 自然環境と人間生活からなるシステムを総合的に明らかにする地生態学的研究が強く求められる。