もうひとつの福祉レジーム?
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概要
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本稿は,1990年代以降のイタリアにおける福祉政策研究の動向を,エスピン=アンデルセンの「福祉レジーム類型論」との関係で,3つの大きな流れに整理して紹介する.<BR>独自の4類型論(1993年)を構築した行政学者フェッレーラは,「福祉国家の南欧モデル」を模索した末,もうひとつの4類型論(1998年)を提案する.そこでは,イタリアないし南欧諸国に共通する特徴として,とくにクライエンテリズムが強調されている.家族社会学者サラチェーノとその後継者ナルディーニは,イタリアないし地中海諸国について「家族主義」という分析視点が重要であることを指摘し,ジェンダーと世代から構成される“親族連帯モデル”を比較史的に論証する.以上の諸研究は,互いに相補的な関係にあり,また国際的な研究動向とも密に連動している.これに対して,カトリック社会学者ドナーティらは,「補完性」の原理という教会の社会教説に即した多元的協働モデルの福祉社会論を構築し,イタリアの福祉政策や実践を多角的に点検する作業を精力的に進めている.<BR>総じて“国家性の欠如”という表現に集約される特質を有するイタリアの福祉が,比較福祉研究の素材としてどのような意味を持ちうるかについての若干の私見が,最後に示唆される