陽子線によるラット顎下腺の急性障害の組織学的研究
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概要
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頭頸部腫瘍の放射線治療の副障害の一つに唾液腺機能障害がある.これは唾液腺が照射野に含まれることが多くこのため放射線により唾液腺の腺房組織が破壊された結果と考えられている.このような唾液腺障害を軽減させるためには, 唾液腺を避けた線量分布を与える放射線の使用が好ましい.陽子線は組織透過中にBragg curveを形成するため, 優れた空間的線量分布を与える.この陽子線による頭頸部の放射線治療はすでに一部で臨床応用されているもののまだ一般的ではなく, したがってその副障害についての報告はない.本研究はラット顎下腺に陽子線を照射し, その急性障害を病理組織学的に検索することにより, 障害の程度と特徴を知ることを目的とし, X線照射によるラット顎下腺の障害像との比較を行った.用いた陽子線は40MeVでその深部線量分布がspread-out peakを呈するものとmono-peakを呈するものの2種類であり, X線は80kVpであった.顎下腺の吸収線量はともに10Gy, 30 Gyおよび45 Gyとした.これらの線量を1回照射後, 顎下腺を光顕下で観察した.その結果, spread-out peak陽子線照射群では, 腺房の萎縮, 崩壊, 消失および導管上皮の変性や崩壊を認めた.これらの所見はX線による障害像とほぼ同様であった.Mono-peak陽子線照射群での障害は他の群とほぼ同様であったが, この群のみに導管に扁平上皮化生がみられた.その原因はmono-peak陽子線のLETがspread-out peak陽子線やX線に比べて高いためと思われた.以上の実験結果から陽子線照射による唾液腺の組織学的変化はX線照射によるそれとほぼ同-であり, また線量の増加とともにその障害の程度が増すことが判明した.
- 昭和大学・昭和歯学会の論文