帝王切開術術前に発見されたコリンエステラーゼ欠損症合併妊娠の1例
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概要
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コリンエステラーゼ(ChE)はコリンエステルをコリンと有機酸に分解する酵素で,肝臓をはじめ体内のさまざまな臓器に分布する.臨床では肝臓での蛋白合成能の指標および術前検査として重要である.異常低値患者は日常生活においてとくに支障をきたすことなく生活することができるが,脱分極性筋弛緩薬が投与された際は,術後長期の筋弛緩効果の遷延および遷延性無呼吸が惹起される.またエステル型局所麻酔薬を投与された際は,投与薬剤の血中濃度上昇による痙攣を惹起する可能性がある.妊娠中ChEは基準値の約70%に低下するが,今回術前検査でChE異常低値であった症例を経験したので帝王切開術術中・術後経過を局所麻酔薬剤代謝経路に関する文献的考察を加えて報告する. 患者は26歳,2回経妊1回経産,第1子正常経腟分娩.妊娠37週,複臀位,子宮筋腫合併妊娠のため帝王切開術目的で入院,術前検査で血清ChE値2.0IU/l(基準値203〜460IU/l:5-メチル-2-テノイルチオコリン(37℃)を基質とする)と異常低値のため,通常の帝王切開術で使用しているアミド型およびエステル型配合局所麻酔薬をアミド型に変更し手術を無事終了することができた.また緊急帝王切開術時は非脱分極性筋弛緩薬を用いる手術計画を立てた.ChE単独異常低値のため遺伝性ChE欠損症を疑い,原因遺伝子解析を行う同意が得られた後,患者血中の有核細胞よりDNAを抽出しPCR法にてChE遺伝子のコード領域を増幅し検索を行ったところ,エクソン3およびエクソン4に1ヵ所ずつアミノ酸置換を認め,これらの変異がChE値低下の原因と考えられた.2ヵ所ともにホモ型変異を認めたため,両親の協力を得て遺伝子解析を追加し,遺伝性を検索したところ,両親からも同部位の遺伝子変異を確認した.ただし親戚関係に血族結婚は認められなかった.ChE欠損症はまれな疾患で,本症例の遺伝子変異部位は今まで報告された1つであるものの,報告内容とは異なる活性を示し,さらに2ヵ所が同時にホモ型変異を示した症例は今まで報告されていない.ChE欠損症に遭遇する頻度は少ないが麻酔剤使用の際は,不慮の事故や緊急手術を行う際にもChE値を測定する必要がある.〔産婦の進歩56(2): 91-98,2004(平成16年5月)〕
著者
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劉 衛東
兵庫医科大学内科学肝胆膵科
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波田 壽一
兵庫医科大学
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鷲尾 元夫
明石医療センター産婦人科
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佐々木 紘子
明石医療センター産婦人科
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富井 一枝
明石医療センター産婦人科
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池辺 成三
明石医療センター検査科
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波田 壽一
兵庫医科大学総合内科学教室
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