金時ニンジン種子の発芽に関する研究 (第6報) : Self-inhibitorの単離
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概要
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金時ニンジン種子の発芽不良の原因の一つとして,さきに渡辺・安芸(35)は種子のエーテルおよびエタノール抽出物中に発芽抑制物質の存在を予告したが,著者らはさらにこの分離を計画した結果,安芸によつて金時ニンジン種子の発芽不良をおこすに充分な発芽抑制物質の単離に成功した。 1.金時ニンジン種子をデシケーター中で充分に乾燥後,粉砕し,同一試料をエーテル,エタノール,熱水の順で抽出した結果,発芽抑制はエーテル抽出区分,エタノール,水可溶区分,熱水抽出区分の3区分に分別され,特にエーテル抽出区分の発芽抑制力は3区分中最も強力であつた。 2.エーテル抽出物を硫酸々性(pH2.0)とし,エール層を4%NaOH水溶液添加後振〓して,エーテル可溶の中性区分をさらにアセトン:水(95:5v/v)を加えて5°Cに3日間放置すると大量の結晶が形成される。そうしてこの結晶をろ紙でろ過後,ろ液の溶媒を溜去して,ケイ酸カラムに展開するとn-ヘキサン,15%ベンゾール含有のヘキサン,5%エーテル含有のn-ヘキサンでは溶出されず,抑制物質は90%エーテル含有のヘキサンで溶出された。本区分の溶媒を溜去した後,活性と不活性(4:5w/w)の混合アルミナカラムに展開したところ,20%エーテル含有の石油エーテルで溶出された。本溶出区分はほとんど無色であつた。さらに本抑制区分をアセトン メタノール(80:20v/v)の溶媒中に2日間,0°Cに放置して,結晶をろ別し,ろ液の溶媒をとばした後,減圧下で水蒸気蒸溜を行なつた。溜液区分はさらにエーテルを添加後振〓して,抑制物質をエーテル層に移行せしめ,エーテルをとばし,濃縮物を再び活性と不活性(4:5w/w)の混合アルミナカラムに展開すると,抑制物質は5%エーテル含有の石油エーテルで溶出された。本溶出区分は無色油状体で,-10°Cに2日間放置すると本区分の全部が結晶して純粋な発芽抑制物質ができる。融点は2〜3°Cである。 3.本抑制物質は石油エーテル,n-ヘキサン,ベンゾール,エーテル,アセトン,メタノール,クロロホルムおよび二硫化炭素に易溶で,冷水には不溶である。舌で味わつてみると舌を強くさすような感じでかつ苦味があり,特有の芳香を有する。キサントゲン酸アルカリ反応(+)で,濃硫酸では暗紅色を呈し,0.2%過マンガン酸カリウムでは茶褐色となる。ジアゾ化ベンチジン反応は(-)で,NおよびSの検出(-)であつた。赤外部吸収スペクトルの結果は芳香環,アルコール性OH基,2重結合の存在を示した。メタノール:石油エーテル:水(4:5:1v/v)の下層を溶媒とする1次元上昇法,によるペーパークロマトグラフイの結果,Rf 0.85のスポットが得られた。紫外部吸収スペクトルの結果,吸収の最大は258mμであつた。分子式はC18H30O3である。 4.単離された抑制物質はニンジンおよびレタス種子で4000倍,ハクサイ種子では500倍で発芽を抑制した。 5.本実験でえられた結晶体は未知の抑制物質と思われるので“Carrotol”と命名したい。 (なお,本報告中赤外部吸収スペクトルの分析および解読は,京都大学農学部農薬化学研究室の熊沢喜三郎助教授に御願いしたもので,深く謝意を表する)。
著者
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