猫のメチル水銀亜急性中毒に対するセレニウム及びビタミンEの影響
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概要
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1) ビタミンEやセレニウムのメチル水銀毒性に対する修飾作用を調べる為, DL-α-tocopherol acetate (以下VE) 50mg/kg/day, 亜セレン酸ナトリウム (以下Se) 0.2066mg/kg/day, 塩化メチル水銀 (以下MMC) 0.30mg/kg/dayを生育猫に投与した。実験動物群はVE+MMC二者併用投与群・Se+MMC二者併用投与群・VE+Se+MMC三者併用投与群・MMC単独投与群・対照群の5群を設けた。2) 死亡率:〔MMC単独投与群3/4>Se併用投与群2/6>VE併用投与群1/6>VE+Se同時併用投与群0/6=対照群0/4〕の順であり, VE+Se同時併用投与とVE併用投与の死亡率抑制効果が明らかとなった。Se併用投与の効果は傾向差にとどまった。3) 体重変化: 実験終了時の比較では, VE+Se同時併用投与群>MMC単独投与群 (p<0.005) であり, VE+Se同時併用投与の体重減少抑制効果が明らかとなった。グラフ上では〔対照群・VE+Se同時併用投与群・Se併用投与群・VE併用投与群・MMC単独投与群〕の順であり, VE併用投与はMMC投与期間の前半に, Se併用投与は後半に体重減少を抑制した。著者の考案した数学モデルによる体重変化の連続検定法では, VE+Se同時併用投与とVE併用投与の際に体重減少抑制効果がみられ, MMC投与期間の前半・後半ともVE併用投与の効果1に対しVE+Se同時併用投与の効果は約3であった。一方Se併用投与の効果は“否定し得ない”程度にとどまった。4) 組織学的観察: 大脳・腎においては異常所見を認めなかった。小脳において, MMC単独投与群は典型的メチル水銀中毒症状を示したが, VE併用投与群とSe併用投与群の病変は軽度であり各々同程度であった。VE併用投与やSe併用投与はメチル水銀の小脳に及ぼす毒性を形態上抑制した。一方VE+Se同時併用投与群は対照群と大差なく, VE+Se同時併用投与はメチル水銀の毒性を形態上ほぼ完全に抑制した。肝臓において, Se併用投与群のみに中毒性肝炎を疑わせる所見が認められ, これはSeの毒性によるものと思われる。一方VE+Se同時併用投与群には何ら症状が認められなかった事より, Seの肝臓に及ぼす毒性がVEにより形態上抑制されたものと考えられる。5) 分析結果: 大脳ではVE併用投与がMeHgの蓄積濃度を増大させた。小脳ではT-Hg・MeHgともにSe併用投与が蓄積濃度を減少させたが, VEはSeの蓄積濃度減少作用を阻害する方向に働いた。肝ではVE併用投与群・Se併用投与群・VE+Se同時併用投与群において, 著者の定量法ではT-Hg値の標準偏差が極めて大となった。腎ではVE併用投与やSe併用投与がMeHg蓄積濃度を大にし, VE+Se同時併用投与では前二者にも増して大である事より各々の作用が相加的相乗的に働いたものと思われる。VE+Se同時併用投与の際毛髪中へT-Hgとしての排泄傾向がみられ, VE併用投与の際MeHgとしての排泄傾向がみられた。血液を含めた各臓器中でVEは単独であるいはHg存在下でSeの保有を促進する傾向がみられた。6) <5>にあげたVEやSeが及ぼすT-Hg・MeHgの生体内動態は, MMCの投与形態・投与量, Seの投与形態・投与量に極めて微妙に影響されるものと思われる。7) Seは独自で直接的に (Hgとの complex 形成, 脱メチル化反応等) Hgの毒性・動態を修飾する場合と, 必須金属として生体の防禦作用を補強する (グルタチオンペルオキシダーゼの構成物質として, 等) 事により毒性発現を修飾する場合が考えられ, 一方VEは生体の防禦作用を補強する (抗酸化作用, 抗酸化剤としての作用以外による膜安定化等) 事によりHgの毒性発現を修飾する場合と, Seを量的質的 (保留を高める, 還元状態に保つ, 等) に賦活する事によって間接的にHgの毒性発現を修飾する場合が考えられる事より,「投与されたVEやSeあるいはVEにより生体内で質的量的に賦活されたSeは, Hgの発病臨界濃度や蓄積限界濃度を大にする」働きを持つと思われる。
- 日本衛生学会の論文