丘陵地における新しい果樹専業地域
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1) 上野の地はやせた第三紀の丘陵地であり,灌漑水も容易にえられないので,古来の日本的耕地としての利用対象にはならず,採草地・薪炭採取地として利用されてきた。2) 1924年以来,果樹園として開発されたが,その際,公有地であったため小作料ぶ著しく低く,かつ一定していたこと,地元で耕地整理をなして耕地が区画され農道が整備され開墾助成金が開拓者に入ったこと,は開拓者にとって有利であった。3) 耕地整理の結果,耕地が宅地の周囲に集中している有利性がある。当初土地は自由に獲得できたが自家の資本・労働を考慮にいれて最高でも3町以下になり,かくて1戸当りにすると一般の農家よりやや広い経営規模が成立した。4) 開発の歴史が新しいので他の土地で果樹の集団的栽培の技術的研究が達成された後に導入されているのは,市場が近くにあることと共にこの地の果樹栽培を容易にした。5) 各地から集った開拓者ぶ分散して居住しているので旧村落とは異った社会的構成を示し,社会的統一も旧村落に比し弱い。これは共同出荷体制が十分でないことと関連がある。開拓者はいずれも企業者的精神に富み,前職が商人・勤人であった人も多い。また,現在まで農民の移動が旧村落に比し著しく,移動の場合は園と家屋とが一括して売買される。移動の多いのは果樹園面積が少ないなど経営の不安定なものが多い。6) 農家の大部分は果樹専業で水田は絶無かまたは零細な経営にすぎない。水田を僅かでももつものは隣接部落からの出身者に多い。7) 果樹は当初は成果の早くあがる種類を多くいれたが,次第により集約的な種類(廿世紀)に移ってきた。果樹専業で水田を欠くから,市況の推移に対する適応は敏感である。経営の小さいものほど集約的な梨の割合が多い。8) 生産資材は階層間で差はあるが,全体に防除施設はよい。防除施設の向上は大経営の労働生産性を向上させ,特に柿に著しい。9) 集約的作物のために労働は多量に投入し,小経営でも臨時雇用を必要とするが,1町歩以上になると家族労力以上の雇用をいれる。果樹栽培地が孤立的に存在するため,近傍から労力が得られやすい利点がある。10) 集約的な梨を中心にやや粗放的な柿を加えた経営がこの地では有利であり,経営規模別では7〜9反の大きさが家族経営として最高の反当収益があり,雇用の多い小資本家的経営では1町5反以上から家計収入が急増する。11) 隣接刺激をうけた近傍の果樹栽培は概して副業的で上野とは経営のタイプを異にする。12) 上野をとりまく旧来の農村では,安定作物である水稲に現金収入源である養蚕を加えた経営でできた村々であり,今日まで労力上・土地利用上また農民の経済的意識からみて果樹は導入されず,上野部落は果樹栽培における孤立的生産地域を続けてきた。