各種条件負荷時の蝸牛内リンパ電位動態に関する実験的研究
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概要
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内耳末梢血行の改善が各種内耳性難聴の治療に際し最も基本的な方針としてとり上げられるべきことは衆目の認めるところであるが, これの基本的資料となる内耳末梢血流についての十分な生理学的知見はなお得られていない現状である. この様な現況下において, その発生起源が蝸牛血管帯毛細血行にあることが定説化したEndolymphatic Potential (EP) を内耳末梢血管系における血流変化を代表する示標に用い, 各種条件負荷時におけるEPの動態観察を基にして夫々の条件が血管帯毛細血管系に及ぼす影響を追究すると共に帰納的に蝸牛末梢血管系における自律神経支配機構についての資料をも得んとするのが本研究の主目的である. 然しEPは所謂steady DC potentialとして極めて安定した電位である故にそのstatic levelのみの変化分の上で本研究における検討事項としての強大音負荷及び各種の自律神経毒投与等が蝸牛末梢血管系に及ぼす影響を正確に評価することは極めて困難である. 従って本研究では先ずasphyxic anoxiaによりEPをshiftさせその時のEP動態上で上記の各種条件の負荷影響を精確に観察し, その影響が何に由来するかについて追究した.<BR>EPはすべて実験動物であるモルモットの各廻転中央階にspiral ligament, stria vascularis経由で刺入した微小電極により誘導し, asphyxic anoxiaの負荷は動物不動化のための筋弛緩剤前処置の関係上使用した人工呼吸器を停止せしめることによりこれを行った.<BR>asphyxic anoxiaによるEP動態上に認められる強大音負荷影響としては負荷音圧が一定度以上でありさえすればEPの誘導部位や周波数に関係なく必発にみられる特異なバターンを示し, 一側耳の負荷によってもその影響は両側性に出現することが確認された. 即ちこのEP動態上にみられる強大音負荷影響としての特異な変動バターンは蝸牛基底膜の偏位のような機械的な変化に直接由来するものでないことが明らかとなり, 而も自律神経毒投与との組み合はせ実験からEP動態上におけるこの強大音の影響が血管帯毛細血管系における交感神経緊張に基因する血流量変化を示すものであることが確実となった.<BR>更に各種自律神経毒投与影響の分析結果として, 蝸牛血管帯毛細血管系における自律神経支配としてこれらの血管系が交感神経作働型であり副交感神経作働型ではないことが判明し, しかもその血管系の変動を決定しているadrenergic mechanismを主宰するものは狭義でのadrenergic fiberではなくacetylcholineをtransmitterとして節後線維末端に貯蔵されるnor-adrenalinを駆出するcholinergicfiberであるとの結論を得た.