慢性上顎洞炎洞粘膜における免疫グロブリンの螢光抗体法的観察
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概要
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慢性副鼻腔炎の最も直接的な原因は細菌感染およびアレルギーとされており, したがつて粘膜内における抗原抗体反応が, 本症の発生機転上重要な役割を演じているだろうということは, これまで多くの人が推測してきた. しかし従来, 慢性副鼻腔炎粘膜における抗原の局在については相当数の報告がみられるが, 抗体の局在に関する研究は, いまだ発表されていない現状にある. したがつて慢性副鼻腔炎粘膜内に抗体がどのように存在するかを知ることは, 本症の病態解明上極めて興味ある問題とおもわれる.<BR>そこで著者は, 慢性副鼻腔炎の粘膜内における抗体の分布を知る目的に免疫グロブリンγA, γG, γMを指標とする螢光抗体直接法を利用して, 慢性上顎洞炎洞粘膜における各免疫グロブリンの局在, およびそれらと病理組織型との関係を観察した.<BR>実験材料は, 12才より62才までの慢性副鼻腔炎患者84例 (男51例, 女33例) 120側より手術時採取した上顎洞粘膜であり, 粘膜は採取後直ちに95%エタノールで固定した. 標本作製法は, おおむね, 浜島・京極に従い, パラフィン切片による蛍光抗体直接法を用いた. 蛍光抗体液はBehringwerke製FITC標織anti-γA, anti-γG, anti-γMの3種である. 顕微鏡は千代田製, 光源も千代田製高圧水銀灯装置を使用した.<BR>特異蛍光の証明には, 一段阻止法, 二段阻止法, および臓器粉末による吸収を行った. 蛍光陽性浸潤細胞の同定には, ヘマトキシリンエオジンおよびウンナパッペンハイム染色を行った.<BR>実験結果をつぎに要約してのべる.<BR>γA, γGの特異蛍光陽性部位は, 形質細胞, 稀にリンパ球様細胞, 粘液層, 上皮細胞, 上皮基底膜, 腺細胞, 血管壁とその周囲, 血管・腺管の内容物, 間質であった. γM含有細胞はごくわずかであり, 主に形質細胞, 時に腺細胞, 血管壁, 間質に認められた. なお, 細胞の特異蛍光は細胞質に限られ核は欠いていた. 病理組織型と免疫グロブリンの関係は, 浮腫型ではγA, γG含有細胞とも固有層全体に一様に軽度ないし中等度の浸潤を示すことが多く, また両免疫グロブリン含有細胞数は大多数の例でほぼ同数であった. 浸潤型では細胞浸潤の強さに比例して, γG含有細胞数が増加し, 浸潤部位は固有層浅層が主であった. 線維型粘膜では免疫グロブリン含有細胞はほとんど認められず, かつ間質の蛍光陽性部位は著しく少なかった. またこの病型は慢性副鼻腔炎に長期間罹患の患者に多くみられた.<BR>以上, 慢性上顎洞炎洞粘膜における免疫グロブリンの局在を蛍光抗体法的に観察した結果, 粘膜内に免疫グロブリンの存在が証明され, かつ細胞浸潤が高度になるとγG含有形質細胞が増加していることから, 形質細胞が粘膜内の抗体特にγGを増量せしめ, 慢性副鼻腔炎粘膜の防衛機構上重要な役割を担っていることを示唆するとおもわれる.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文