声門の防禦反射に対する薬物の影響
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
防禦反射としての声門閉鎖反射は本来気道内への異物進入を防ぐための機構で重要な反射の一つであることは云うまでもない.<BR>一方この反射あるが故に臨床的にはしばしば喉頭痙攣という言葉で表わせる様に不測の事態を起させるのである. この反射は上気道に加えられた刺激により惹起され特に喉頭, 下咽頭に刺激が及ぼされた場合に強く表われる事は周知の如くである. この事は誰しもが直達鏡その他の検査等に際し経験して来たことである. 声門の閉鎖反射は一般に実験的にも可成り全身麻酔が深くなっても消失しないと云われ臨床的にはこの反射を阻止する目的で筋弛緩剤の投与や粘膜の塗布麻酔が行われているのが現状である. 扨て私達は今回臨床的に日常使用されている薬物が果してこの声門閉鎖反射にどの様な影響を及ぼしているかを検する目的で猫を使用して電気生理学的実験を行った. 体重3kg前後の成熟雌雄の猫25匹を使用した. ネンブタール30mg/kgで麻酔しFláxédilで非動化させ調節呼吸を行いマイクロスコープを使用し上喉頭神経内枝と同側の反回神経を丁寧に露出し前者に刺激電極を置き後者に誘導電極を置き中枢経由でreflex responseをとり出した. このreflex responseのAmplitude, latencyを指標とし薬物がどの様な影響を及ぼすかを検した. 使用した薬剤はpentobarbital sodium, chlorpromazine promethazine hydrochloride, mephenesinで電気生理学的に声門反射を検討してみた.<BR>実験結果は凡そ次の様な結論を得た, 即ち<BR>1) 反回神経より自発性activityをとり出し無麻酔下とpentobarbital sodium投与後とを比較したが, 自発性activityはpentobarbital sodium投与の方が抑制された.<BR>2) 声門反射はpentobarbital sodiumでは30mg/kgでは殆んど影響されず90mg/kg投与で始めて抑制された. これは日常使用量では殆んど声門反射は影響されないという事である.<BR>3) chlorpromazineでは阻止効果が認められた.<BR>4) promethazine hydrochlorideでは阻止効果が認められた.<BR>5) chlorpromazineとpromethazine hydrochloride併用の場合阻止効果は個体の差はあるが可成の効果が認められた.<BR>6) mephenesineでは即効的に阻止効果が認められたが約30分後に完全に恢復した.<BR>以上の実験成績より得られた結論より我々臨床医はこれらの薬物が効果を持続している間は常に声門反射が低下しているので誤嚥という問題が考えられる.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文