鼻副鼻腔乳頭腫症例 : 特にその病理組織学的所見について
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概要
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鼻副鼻腔乳頭腫は, 一般に多い疾患ではないが, 3症例を経験したので, その治療方法, 経過について報告し, 特にその病理組織学的所見について述べた.<BR>症例1. 患者は59才, 女子で, 左側鼻閉を主訴として来院, 左側鼻腔に大きな表面平滑, 白色のポリーブ様腫瘍と, 軽度の頬部腫脹を認めた. レントゲン所見では, 左上顎洞篩骨洞に陰影を認め, 上顎結節は強く膨隆し, 洞骨壁は非常に薄くなり, 鼻中隔は反側へ強く弧をなして彎曲していた. しかし, 骨の欠損像は認めなかった. Caldwell-Lüc法にて手術を行ない, 術後3年を経た現在, 再発を認めない.<BR>症例2. 患者は63才, 男子で, 鼻閉と悪臭鼻漏を主訴として来院, 右側中鼻道に大きなポリープ様腫瘍を認めた. レントゲン所見では, 右上顎洞の陰影と, 断層写真にて, 中鼻道附近の骨欠損像とを認めた. Caldwell-Lüc法にて手術を行ない, 術後1年4ヶ月を経たが, 再発を認めない.<BR>症例3. 患者は53才, 女子で, 右側鼻閉および鼻出血を主訴として来院, 右側中鼻道に雀卵大の腫瘤を認めた. レントゲン所見では, 両側上顎洞篩骨洞に陰影を認めたが, 断層写真にても, 骨破壊像は認めなかった. Caldwell-Lüc法にて手術を行ない, 術後5年5ヶ月を経過した現在, 再発をみず良好である.<BR>本腫瘍で, 最も興味あるのは, その病理組織学的所見に関してである. 上記3例は, いずれも深向性増殖を示し, 症例1では, 基底膜のすぐ上では, 丈の高い円柱状の細胞がみられ, 深向性上皮の表層にいくにしたがって, 扁平な細胞がみられるが, 細胞間橋は明らかでない. 症例2では, 角化傾向が強く, 細胞間橋も明確に認められる. この2症例では, 悪性像は認められなかったが, 本腫瘍で注意すべきは, 悪性化, あるいは悪性像をもっての発症である. 症例3の細胞は, わずかに異型的であり, 核分裂像, 増殖像が多くみられた. 基底膜下に, 円形細胞の浸潤が強くみられたが, 基底膜の断裂, およびその下への浸潤性増殖はみられなかった.<BR>以上の3症例は, 術後放射線治療を行なっていないが, 現在まで良好な経過をとっている.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文