舌根甲状腺症例
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
16才の女子にみられた, 舌根甲状腺について述べた.<BR>咽頭異物感, 構音障害としての含み声, および軽度の呼吸困難と燕下障害を訴えた. 舌根正中部に胡桃大, 半球形の腫瘤を認めた. 表面は平滑で, 拡張した血管を認めたが, 潰瘍はみられなかった.<BR>放射性ヨードによるシンチグラムでは, 前頸部には集積を認めず, 舌根部に認めた.<BR>手術は, 全身麻酔下に顎下部に皮切をおき, 腫瘤の部分切除を行なった. 自覚症状は除かれた.<BR>病理組織学的所見では, 腫瘤は甲状腺組織であって, 一部は乳嘴状増殖を示したが, 悪性像はみられなかった.<BR>甲状腺組織の位置異常は, 最もしばしば舌根部にみられる. Hickmanは, 1867年舌根部に先天的に腫瘤があり, それが組織学的に甲状腺由来であることをみつけ報告した最初である. 日本では, 若林が1899年に舌根甲状腺の1例を述べ, 以来37例が報告され, この症例を加えて38例となる. 舌根甲状腺は, 比較的まれな疾患である.<BR>詳細のわかる症例についてみると, 男性より女性に多くみられ, その比率は約6: 1であり, 年齢的には, 15才から45才に多い.<BR>すべての舌根甲状腺が, 積極的治療の対象とならないことは疑いない. 著明な呼吸困難, 嚥下障害と構音障害, 反復するまたは大出血の場合に手術的療法が必要となる. しかし, 治療の前には, 甲状腺機能検査およびシンチグラムを検査することが必要である. 手術の適応は, 厳密に決められねばならず, ただ漫然と行なってはならない.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文