赤外分光分析における五員環複素芳香核の特性吸收帶について : 有機化学における赤外分光分析(第4報)
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概要
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フラン,ピロールおよびチオフェンの三種の五員環複素芳香核の特性吸収帯を検討した結果について報告する.まずν<SUB>C-H</SUB>については,フラン核とチオフェン核はともにベンゼン核のν<SUB>C-H</SUB>よりもかなり短波長域に,しかも強度のかなり大きい吸収帯をもっている.核のν<SUB>C=C</SUB>については,フラン類とピロール類ではともにベンゼン核のそれとほぼひとしい位置に,チオフェン類ではそれよりかなり長波長域に,いずれも2本の吸収帯がみられた.強度は共役系の場合はいずれもかなり大きいが,非共役系のときには三種三様で,とくにチオフェン類では確認しがたいものが多い.指紋領域ではフラン類に,核の確認に非常に有効な吸収帯(11.3〜11.45μ)が見いだされた.<BR>最近天然物のなかにフラン核をふくんだ興味ぶかい化合物が数多く見出されている.このフラン核の存在を確認するのに,いくつかの化学的な方法が知られているが,置換基の種類やその位置によって不確実な結論しかえられないことがあり,またフラン核が一般に反応性にとんでいるため,その反応操作中に分解してしまって結果があいまいになることも少なくない.1したがってこのような変化のおこるおそれのない物理化学的な方法,たとえば紫外線吸収や赤外線吸収などをもちいて確認できれば非常に好都合である.しかしフラン核は紫外部には末端吸収(endo absorption)しかしめさないので,この目的には不適当である.一方赤外部の吸収については,たとえばCockerらは彼のマルビインの研究において,マルビインおよびその分解生成物のうちのいくつかのもののスペクトルが,フランやフリルアルコールなどのそれと類似しているところから,フラン核の存在を推定している.しかしどの吸収帯が,この核の確認に有効であるのか,といった点については言及していない.筆者は,本学の久保田のもとで天然物中より見出されたフラン核をふくむ化合物,たとえばイポメアマロン,イポメアニン,バタチン酸などや,これらの化合物の分解生成物,またその合成をこころみた際にえた中間物などを主として,その例についてスペクトルを検討したところ,あとでのべるようないくかつの特性吸収帯を見出すことができた.<BR>またおなじ五員環複素芳香族化合物であるピロール類やチオフェン類の相当数についても,そのスペクトルを検討してみたところ,フラン類の場合とよく似た結果が見出され,これらの特性吸収帯は赤外分光分析(定性)のうえから,これらの核の存在を検索する際,重要な役割をはたしうるものとおもう.
- 社団法人 日本分析化学会の論文