シグマトロピー転位を利用する有機合成
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概要
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シグマトロピー転位に関する研究は, Woodward-Hoffmann則 の発見に刺激されて, 理論的にも実験的にも精細かつ広範囲に行われてきたが, 最近合成的にもきわめて利用度の高い興味ある反応が相次いで報告されている。それは, シグマトロピー転位のもつ高い立体選択性や, 優れた位置特異性への認識が深まるとともに, 転位に適した系を容易に作りだす合成法の進歩が, 応用への道を可能にしたためである。また一方では, 昆虫の幼若ホルモンや性フェロモンなど厳密な立体特異性を要求する生理活性物質の発見が, 高い選択性をもつ合成法の開発を必要としたためと考えられる。本総説においては, そうした最近の進歩を, 主として合成化学の視点から慨観してみたい。しかし一口にシグマトロピー転位といっても, その包括するところはあまりにも広く, すべてを網羅することはもとより不可能に近いので, ここでは範囲を最も利用度の高い6電子系のシグマトロピー転位に限定して解説することにする。6電子系の転位は, 中性の [3, 3] 次と [1, 5] 次転位, アニオン性の [2, 3] 次と [1, 4] 次転位, それにカチオン性の [2, 5] 次, [3, 4] 次および [1, 6] 次転位の合計7種の転位に分類できる。このうち [3, 3] 次転位については, すでに本誌に牧角氏の総説があり, また最近CopeおよびClaisen転位に関してRhoadsらの詳しい総説が出ており,,硫黄のイリドの [2, 3] -転位については, Trostの優れた成書が出版されているので, それらとの重複をできるだけ避けるつもりである。<BR>最近Lepleyら は構造化学で用いられる等電子構造 (isoelectronic structure) の考えを拡張した等電子転位 (isoelectronic rearrangement) の慨念を提出し, これが新しい転位系の発見や設計に有用であることを指摘している。等電子転位とは, 転位に関与する原子が, 同一の電子配置をもつ系において行われる転位反応を意味するもので, シグマトロピー転位をヘテロ原子系へ拡張する場合, 特に有効な原理となる。たとえば, Claisen転位は, Cope転位と等電子反応であり, Pummerer転位とPolonovski転位は等電子転位である。この原理は, ヘテロ原子を2個またはそれ以上含む系にも適用できるから [3, 3] 次および [2, 3] 次シグマトロピー転位は次のような一般式 [1] と [2] で表すことができる。
- 社団法人 有機合成化学協会の論文