胸膜炎,心膜炎を続発したネズミチフス菌腹膜炎の1症例
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ヒトのサルモネラ症の大多数は腸管の急性感染症として発症するが,中でもSalmonella typhimuriumは胃腸炎の病因となるサルモネラ中最もしばしばみられる菌である.しかし本菌による菌血症或いは病巣感染の報告例は比較的少ない.著者らは本菌による腹膜炎で初発し,さらに胸膜炎,心膜炎を逐次発症するという特異な経過をたどつた症例を経験した.患者は66才,女性,昭和54年1月から腹部膨満感,右上腹部痛,食欲不振等が出現し2月入院.黄色やや混濁した腹水からS. typhimuriumを検出した.同菌は便中にもみられたが,血液中には証明されなかつた. cephalothin (CET)の静注および腹腔内注とaminobenzil penicillin経口投与により,約1週間で腹水中の菌は陰性化し,臨床的にも順調な経過で3月下旬退院した.ところが1週間後に左胸痛,咳痰,発熱,呼吸困難出現し,左胸膜炎の診断で4月再入院した.胸水から再びS. typhimuriumを検出し,今回もCETの静注と胸腔内注にtetracyclineを併用静注し,比較的速やかに胸水中の菌は陰性化した.今回は便中にも血中にも菌は認められなかつた.再入院時,心臓部超音波検査で心膜液の貯留を認め,同一機作による心膜炎の合併と考えた.腸管リンパ節で増殖した本菌が腹腔内に散布され腹膜炎を起こし,ついでリンパ行性又は菌血症により胸膜炎,心膜炎を起こしたと考えられるが, S. typhimuriumの腸管外感染症例で,かかる臨床経過をとつた例は内外に未だ報告をみない.