肝疾患の病態生理と赤血球代謝情報 : 血液酸素運搬機能の変化とその起点
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概要
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各種肝疾患における血液酸素解離曲線(ODC), 2, 3-diphosphoglycerate (2, 3-DPG),動脈血酸素分圧(PaO2),肺胞気・動脈血間酸素分圧差(AaDO2)などの変動を肝病態との関連において検討した. 2, 3-DPG値は,健常者4.73±0.33 (mmol/L・RBC),急性肝炎5.11±0.42,慢性肝炎5.07±0.42,肝硬変5.64±0.77で,肝硬変ではそのほとんどが増加を示し,ことに非代償性肝硬変でその傾向が強かつた. ODCについてもP50値は,健常者27.2±0.5 (mmHg),急性肝炎27.6±0.5,慢性肝炎27.3±0.5,肝硬変28.4±0.7とやはりほとんどの肝硬変症例でP50高値を示した.肝疾患に随伴する貧血と2, 3-DPG, P50との関係については有意の逆相関を示したが,肝疾患のみられない貧血症での2, 3-DPG値, P50値はそれぞれ5.45±0.23, 28.2±0.5であり,肝硬変症例の方がより高値を示した.また, PaO2, AaDO2はそれぞれ健常者で92.9±2.2, 14.3±4.8 (mmHg),肝硬変患者で81.9±7.7, 29.4±7.2 (mmHg)であり,肝硬変症例でのPaO2の低下, AaDO2の増大がみられた.以上より,慢性肝疾患におけるODC右偏, 2, 3-DPG増加の原因は単一なものではなく,貧血,低酸素血症などが相互に重なり合つて2, 3-DPGの増加を引き起こし,その結果血液の酸素に対する親和性を低下させ,末梢組織における血液からの酸素放出能を高めるという生体の低酸素血状態に対する生理的適応現象と考えられる.