肝硬変症の貧血とその成因
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概要
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肝硬変症の貧血の成因を解明するために,同症62例を対象とし末梢血液および骨髄像の検索,赤血球寿命の測定,鉄動態の検討,血清ビタミンB12および葉酸値の定量を実施した.ここにはその成績を報告すると共に,肝硬変症に続発する貧血の成因について論じた.対象62例中67.7%でHb濃度低下が認められ,貧血例の79.1%が大球性であつた.また赤血球直径の増大に逆比例し厚径が薄くなる,いわゆるthin macrocytosisに該当するものが78.3%であつた.検索した29例中9例は循環血球量の減少のない,見掛けの貧血であつた. 51Ca法による赤血球血管内生存期間は貧血の程度に応じて,短縮する傾向が明らかであつた.対象例中顕性出血を示したものは少なく,屎潜血反応陽性例,陰性例間で赤血球生存期間に著差はなかつた.血清鉄値は正常ないし高値を示す例が多く, TIBCは減少傾向を示し,鉄欠乏型を示す例は少なかつた.血漿鉄交代(PIT),赤血球鉄交代(RCIT)は正常ないし増加したが,赤血球寿命との間に相関々係はなかつた.血清葉酸値は正常ないし低下し, formiminoglutamic acid (FIGLu)尿中排泄増加例がみられた.血清ビタミンB12は増加例が多かつた,骨髄は細胞性で,一部で巨赤芽球をみた.また骨髄細胞中のerythropoietin responsive cell (ERC)は正常であつた.以上の成績より本症に伴われる貧血は失血による鉄欠乏を除けば,赤血球寿命の短縮が造血により,カバーし得ないことであろう.かかる相対的造血能低下の原因についても論及した.
- 社団法人 日本内科学会の論文