中枢神経障害時における異常心電図の発生機序にかんする研究
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概要
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中枢神経障害,殊にくも膜下出血例にみられる特有な心電図変化の発生機序解明を目的として,白鼡および家兎を用いて実験的中枢神経障害を惹起させて,障害発生時における心電図変化,心筋および血清電解質,並びに尿中カテコラミン排泄量の変化を観察した.白鼡における心電図変化は,大槽内自家血液注入群において,心室性期外収縮,ST, Tの急激な上昇とその後に随伴するTの平低化,房室ブロック,洞性不整脈であつた.このような変化は,臨床例においてもみられる所見と多くの類似性を示した.しかしながら,予め迷走神経を切断して,大槽内自家血液を注入すると,心電図には前述の変化の発生を認めなかつた.一方実験的脳栓塞群においては著明な心電図変化は認められなかつた.電解質についてみると,大槽内自家血液注入群にて迷走神経切断の有無にかかわらず,心筋内カリウムの低下,血清内カリウムの上昇を認めた.その他の群にては,ナトリウム,カリウムともに有意の変化を示さなかった.家兎を用いて同様の実験を行なつたが,大槽内自家血液注入群にて尿中カテコラミン排泄量の増加を認めた.脊髄高位切断家兎にアドレナリンを投与した際,心電図上前述と同様の変化が出現した.しかし予め迷走神経切断を加えた群では,アドレナリン投与にかかわらず心電図変化は認められなかつた.以上より中枢神経障害発生時,尿中カテコラミン排泄量の増加のあること,また増加程度の大なる症例ほど,著明な心電図変化をきたすことから,中枢神経障害時における特異的心電図の出現時には交感神経系の緊張亢進があり,さらにその心電図変化の発生には迷走神経の興奮が関与していることを明らかにした.なお生体内電解質変化が関与しているという証拠は得られなかつた.
- 社団法人 日本内科学会の論文