エラスターゼ(弾性線維分解酵素)の抗動脈硬化作用について
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概要
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19世紀中葉から動脈硬化成立の第一因は血液成分の異常にあるとする説が主導的で,内膜の異常も考えられたが,その意義は二次的であるとされた. 1935年にDuffがアテローム硬化の成立は血管壁のなんらかの傷害が先発すると唱えてから,この学説の支持者も多く,今日では動脈内膜にmetabolic barrierの存在を仮定するに至り,その損傷をもつて硬化成立の第一因と考えるに至つたが,損傷因子を酸素欠乏等の外的因子に求めている.この外因性という点に疑問を持つ著者は,一つの内因性物質(膵臓エラスターゼ)に抗動脈硬化作用のあることを示し,その生体内での相対的または絶体的欠乏が, metabolic barrierの機能低下と関連し,傷害血管の発生にあずかると考える.コレステロール投与中の雄性家兎に連日エラスターゼ(10mgおよび2mg)を筋注投与し, 2カ月後その家兎の血清,大動脈,肝の脂質を抽出し,腸質量,総脂質の脂酸構成,アテロームの形成状況,分画脂質脂酸構成を観察した.アテロームの形成は阻止され,血清の脂質の降下はなかつたが,動脈壁の総コレステロール,中性脂肪は減じ,燐脂質は増加した.また,脂酸構成は血中においても,組織においても改善した.健常家兎とコレステロール投与家兎との血清,大動脈および肝の分画脂質脂酸構成の分析によつて,動脈壁に生理的にmetabolic barrierの存在することを推論し,エラスターゼがこの機購の保護にあずかつていると推定した.別に,実験的アテローム硬化家兎を作製し,その後にエラスターゼ(10mg)を連日投与し,アテロームの回復状況を観察したが,その作用は緩徐であつた.
- 社団法人 日本内科学会の論文