昇温脱離法の新しい解釈 : 表面相転移との関連
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概要
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吸着系の一次相転移と密接に関連して観測されるゼロ次脱離を対象としてその解析の到達点を概説した。<BR>「ゼロ次脱離は(その組合せはなんであれ)相共存域において観測される」という対応関係は,実験的にはほぼ確立されている。そこで,相図を求める方法としてTDSを応用してゆくことは大いに期待される。また,現在行われているAES,PES,EELS,電子顕微鏡等々,構造に関する実験方法が多い中で,TDSは等温線測定と同様,熱力量に関する情報を与える数少ない実験の一つであり構造とは異なる側面からの情報源として貴重である。<BR>ゼロ次脱離の速度論的解釈のうちでは,3.4節で述べた遷移状態理論のものが全ての実験事実を首尾一貫して説明している唯一のものである。この解釈は,第3.4節脚注で述べたように従来の常識と相反するものであるので,まだ広くは受け入れられていない。しかし,ここに掲げた多くのゼロ次脱離の実験事実がその妥当性を充分支持しており,今後その数は増加してゆくであろう。<BR>昇温脱離の速度論は,膨大な応用領域を持つ化学反応速度論の内で,最も基本的な過程であり,これをきちんと理解しておくことは一般の反応を理解していく上で欠くべからざるものである。特に,吸着系は,非常に深い吸着ポテンシャルの中に閉じ込められている高圧・高密度の強く相互作用している粒子系である。そこでは気相・液相での速度論のような簡単な近似はまるで成立せず,初めから強く相互作用した凝縮系として取り扱う必要がある。ゼロ次脱離という特異なスペクトルに注目し,その起源をしっかりと見極めることは速度論の基本問題を解決するのみならず,表面層転移の相図の決定・臨界指数の決定など統計熱力学的理解の発展にも寄与するものと期待される。
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