胸腺腫再発時に筋無力症状の再燃をきたさなかった重症筋無力症の1例
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概要
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重症無力症(以下MGと略す)は,高率に胸腺過形成あるいは胸腺腫などの胸腺異常を伴い,胸腺・胸腺腫摘出術によりMG症状の改善が得られることが知られている.通常,胸腺腫を合併した患者ではMG症状の自然寛解はまれで,胸腺腫の進展に伴いMG症状が増悪し,胸腺腫摘出あるいは放射線療法などの胸腺腫に対する治療が奏効した場合にMG症状も改善することもあると考えられている.しかし,われわれが検索した限りでは胸腺腫合併MGにおいて,胸腺腫の再発とMG症状の関係を明確にした報告を見出すことはできなかった.今回,われわれは胸腺・胸腺腫摘出術後, MG症状はほぼ完全寛解した後に,胸腺腫は再発したがMG症状の再然を認めなかった胸腺腫合併MGの1例を経験した.このような症例はMGと胸腺,胸腺異常との関連を考えるうえで示唆に富む症例と考えられたので報告する.症例は40歳女性. 1977年4月眼瞼下垂にて発症.同年6月Osserman分類でII AのMGと診断.気縦隔造影にて胸腺腫の存在を認めたため同年7月外科的摘出を施行した.胸腺腫は胸膜の一部と〓着していたが,これを含め非腫瘍性胸腺とともに全摘した.術後MG症状は徐々に改善し3年後には抗コリンエステラーゼ剤もまったく不要となった.術後6年後に胸腺腫の再発を認めたがMG症状は寛解状態を維持し続けた.この間,抗アセチルコリン受容体抗体価にも変動を認めなかった.本症例のMG症状と胸腺腫および非腫瘍性胸腺との関連について考えると,胸腺腫そのものはMG症状の発現には関与しておらず,非腫瘍性胸腺がMG症状の発現に関与していたと考えられる.文献的には,胸腺腫摘出後にMGが発症した例や,胸腺腫摘出後に寛解状態にあったMG症状が再出現した例,胸腺腫摘出後にMG症状が急性増悪した例,寛解状態にあったMG患者で胸腺腫がはじめて認められるようになったときにMG症状が再出現しなかった例などが報告されており,本症例も含めて胸腺腫にはMG症状発現に促進的に働く場合,抑制的に働く場合および本症例のように一義的には関与していないと思われる場合のあることが示唆された.また経過中,胸腺腫以外に甲状腺腺腫および卵巣奇形腫を合併しており,胸腺異常と腫瘍性疾患との関連をうかがわせる症例であった.
著者
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正津 晃
東海大学病院外科
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井上 宏司
東海大学病院外科学1
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清水 宏明
東海大学病院内科学4
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市川 幸延
東海大学病院内科学4
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内山 光昭
東海大学病院内科学4
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高屋 正敏
東海大学病院内科学4
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守内 順子
東海大学病院内科学4
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小川 純一
東海大学病院外科学1
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有森 茂
東海大学病院内科学4
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