ニホンザルの季節繁殖リズムの発現機序
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概要
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本研究は,ニホンザルの季節繁殖を調節している機構を明らかにする目的で,環境要因と体内要因の両面から検討したものである.1)月経周期の発現状況や血中ホルモン動態を屋外飼育個体と屋内飼育個体で比較した結果,環境の季節変化に乏しい屋内飼育条件では,非繁殖期における卵巣機能の抑制が弱いことがわかった.2)サルを人工気象室に入れ,短日条件と長日条件を4ヶ月毎に負荷した.結果は日長条件に無関係に繁殖期に一致して月経周期が回帰した.そこで,非繁殖期の5-8月に短日•低温条件を,繁殖期の9-12月に長日•高温条件を負荷したところ,短日•低温条件で卵巣機能の充進がみられた.これらの結果から,ニホンザルの季節繁殖リズムを支配している主要環境要因は光周期単独ではなく,光周期と環境温度の複合要因であることが示唆されるとともに,内因性の概年リズムの存在も暗示された.4)性腺からのインヒビン分泌は,雌雄とも繁殖期に亢進し,非繁殖期に低下した.繁殖期間中,インヒビンとFSH分泌に負の相関関係がみられたことから,インヒビンは繁殖期におけるFSH分泌調節に関与していることが示唆された.5)性ステロイドホルモンに対する中枢の感受性の季節変化を知るため,卵巣摘除後エストロジェンを慢性的に投与して,エストロジェンのネガティブ•フィードバック作用の季節変化を調べた.その結果,血中LHは繁殖期の開始時期に一致して急増し,繁殖期の終了時期に一致して急減したことから,エストロジェンに対する中枢の感受性に明瞭な季節差があり,その感受性の変化がニホンザルの季節繁殖リズムの発現に重要な働きをしていることが示唆された.6)群れ飼育下のサルでは,繁殖期の開始時期におけるオスの性腺機能の上昇がメスよりも先行することから,雌雄の社会的要因も季節繁殖の発現に関与している可能性が高い結果を得た.これらの結果から,ニホンザルの季節繁殖リズムは,内因性の概年リズムと光周期•環境温度•雌雄の社会的要因などの環境要因の複合要因が,視床下部一下垂体系に働き,その部位のエストロジェンに対する感受性を繁殖期型と非繁殖期型に変化させることにより成り立っているものとの結論を得た.