軟口蓋の鼻咽腔粘膜の加年的変化についての病理組織学的研究
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概要
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1 目的:鼻咽腔は上気道の一部として鼻腔と咽•喉頭の中間に位置し,鼻腔からの気流及び両者の炎症の影響を最もうけやすく臨床的には重要な意義を有する部位であるにかゝわらず,耳鼻科に於ては他上気道の多くの研究に比し殆どかえりみられていない.堀口はこの部の特殊性に関心を向け,特にその炎症に於ける診断と治癒の判定を共同研究者と共に種々の方向より解明してきた.この部の粘膜の組織学的検索については生検を臨床上行いがたいので,わたくしは今回出生直後より85才までの剖検例から得た軟口蓋背面の鼻咽腔粘膜の上皮ならびに固有層に現われる加令的変化を,炎症,リンパ組織,又混合腺に出現するoncocyteに就いて病理組織学的検索を行なつた.2 実験法:検索材料は東京医科歯科大学病理学教室に深存されていた剖検例より非選択的に選んだ200例から切除した口蓋垂から後鼻孔にいたる部分を含む軟口蓋の正中部組織片である.通法に従つてパラフィン包埋となした後に,軟口蓋正中部にあたる部分を約1mmの範囲に4μ前後の矢状断方向の階段切片を作製し,ヘマトキシリン•エオヂン染色を主とし時によりP.A.S染色およびメテナミン銀染色も用いた.3 結果:1) 軟口蓋背面の鼻咽腔粘膜には気道から種々なる化学的物理的感染性の刺激が反復作用し,そのために多列線毛円柱上皮に種々なる化生を起こし易い.2) 多列線毛円柱上皮は大きな浸透性をもち,上皮下に炎症性反応を起こし易く,気道からの感作に適した粘膜構造をもつている.3) リンパ様組織は上皮下あるいは導管周囲に生後2ヶ月頃より発達し,それ以後85才まで56%位に存在した.リンパ様組織内にはしばしば異型細網細胞の軽い増殖がみられ,この部のリンパ様組織が細網肉腫の発生母組織となりうる可能性を派唆していた.4) 軟口蓋の混合腺の導管部には1才4ヶ月頃からoncocyteの出現がみられ,41才以上では100%に認められ,60才以上では著しい増殖を示すようになつた.この場合のoncocyYeの発生は,この部の混合腺に出生後間もない時期から85才まで現われ,反復性分泌液停滞に関連した組織障害と修復に誘発された化生による可能性を示唆せしめた.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文