南九州における喉頭癌および下咽頭癌の臨床的ならびに病理組織学的研究
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概要
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目的:喉頭癌の予後はその早期発見とあいまつて著しく改善されてきている.したがつて現在治療に関しても,その機能を保存した形での治癒を目的とするようになりつつある.しかし一方ではなお進行癌症例に遭遇することも稀ではない.南九州における本症の実態把握のため,鹿児島大学耳鼻咽喉科学教室で治療を受けた症例な中心に臨床統計的に観察し,早期発見を妨げる要因,治療法や予後との関係について検索し一部UICC分類の有用性に関して香検討した.本症はまたその発生部位および進展状態によつて,治療に対する腫瘍の反応,すなわち治療効果,ひいてはその予後に大きな差がある.したがつて腫瘍の存在する部位またはその領域によつて異る腫瘍の形態学的特性については病理組織学的に検索した.研究方法:(1)主として当教室で入院加療を受けた150例について臨床統計的に観察した.(2)腫瘍の解剖学的部位による,形態学的ならびに臨床的特性をその腫瘍発育先端部の差異に求め,喉頭癌症例87例,下咽頭癌症例13例の可及的腫瘍中心部をとうり,而も辺縁部,健常部をも含む大切片を作成し,HE染色をした後検索した.結果:本症は南九州において必ずしも増加していない.supraglottic cancerは他の領域の腫瘍に比べ予後が悪い.この部位の腫瘍は,その進展範囲より術前照射を施行することが多いが,転移形成による死亡例が多い.喉頭癌は一般的にいつて再発部位が局所であるか,或いは又遠隔転移を示す例では予後が悪いが,頸部リンパ節転移例は治療効果が期待出来る.病理組織学的にsupraglottic cancerは(1)腫瘍の脈管内蔓延進展を見る症例が多い.(2)この腫瘍の脈管内蔓延と頸部リンパ節転移には密接な関係がみられる.(3)腫瘍周辺部上皮の異型性増殖が,他の部位よりも多い頻度でみられる、これに対しsubglottic cancerは(1)腫瘍発育先端部の簇出度が高い.(2)腫瘍発育先端部の腫瘍胞巣壊亮がより多く認められ,この周囲には結合織の増殖が著明に認められる.この発育先端部に腫瘍胞巣の変性壊死像のみられる例は,予後が良い.喉頭癌は一般的にいつて,腫瘍発育先端部の簇出度と再発との関係は判然としない.腫瘍の脈管内蔓延は術前照射例により多く認められる.以上の事例より,術前照射例は抗腫瘍剤の投与が必要であり,腫瘍発育先端部の腫瘍胞巣における壊死巣は,切除範囲の決定に有用であることなどが判つた.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文