鼻咽腔刺激と血中遊離脂肪酸の動態について
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概要
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(研究目的)鼻咽腔刺激によつて自律神経が興奮し,また,その時に存在する鼻咽腔炎の治療によつて,自律神経の異常状態が正常状態に変るという事実は,教室において数次に亘り,色々な方面から,発表した所であるが,今回はこの自律神経の異常状態が血中遊離脂肪酸(Free Fatty Acid,以下FFAと略す)の動態に対して如何なる影響を及ぼすかということを観察した.蓋し血中FFAは交感神経-アドレナリン系の支配を受けて速かに遊動するものであり,且つまたこの変化は自律神経遮断剤の事前投与によつて限止されるという性質があることから,鼻咽腔刺激による血中FFAの変化を観察することによつて,交感神経-アドレナリン系の変化が如何に行われるかということを推測する手段となり得ると考えられるのである.(実験法)鼻咽腔刺激によつて血中FFAが急速に上昇すること,しかも刺激後大凡10分でピークに達することを確かめた.鼻咽腔炎患者50名について,鼻咽腔刺激前及び刺激後10分の血中FFAを測定して,その間における血中FFAの変動率を調べた.鼻咽腔治療と共にこの血中FFAの変動率がどのように変化するかを観察した.血中FFAの測定にはダンカン比色改良法を使用した.(結果)1. 初診時において鼻咽腔炎患者50例中48例において鼻咽腔刺激後血中FFAは上昇した.その上昇率は1〜124%であつた.2. 鼻咽腔炎の程度と血中FFAの上昇率とは相関する.即ち炎症が高度になるにつれて上昇率は大きくなる.3. 鼻咽腔炎治療によつて炎症が軽快すると血中FFAの上昇率は10〜30%の範囲に近づく.4. 以上から鼻咽腔刺激ないし治療は自律神経系の調節の役割を果すと考える.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文