耳下腺悪性腫瘍の臨床と病理
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概要
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耳下腺悪性腫瘍の臨床と病理研究目的:耳下腺悪性腫瘍の病態像を明らかにし,診断並びに治療大系に資することを目的とする.研究方法:教室症例(昭和26年〜45年迄総数82例)を材料とし,自覚症,唾影像,超音波診断,99mTcに依るscanning等の所見と病理組織化学的所見を対比検討した.成績および結論:1) 耳下腺悪性腫瘍の組織像は多彩である.頻度ではpapillary adenocarcinoma, malignant mixed tumor, cyst adenocarcinoma, adenoid cystic carcinoma, mucoepidermoid tumor, squamous cell carcinoma, reticulosarcoma, acinic cell tumor, fibresarcoma, malignant oncocytoma, neuroblastomaの順となつた.2) 自発痛との関連:自発痛のあるものは40.2%で,組織別にみるとsquamous cell carcimomaの60%, anaplastic adenocarcinoma, adenoid cystic carcinomaの50%,adenocarcinoma全体として44%,malignant mixed tumorの40%に自発痛を訴えた.3) 顔面神経麻痺と組織像:総数の約50%に顔神麻痺があり特に腫膓が両葉にまたがる群に多く,組織像別ではtrabecular adenocarcinomaの100%, cyst adenocarcinomaの55%, papillary adenocarcinomaの54%,reticulosarcomaの50%, squamous cell carcinomaの40%に麻痺が出現した,但しmalignant mixed tumor, acinic cell tumorでは麻痺を伴なわいことが多い.4) 唾影像と病理:造影剤の漏洩を66%に認めたが漏洩は悪性良性別を術前に決める有力な指標となる.5) 臨床所見と予後:(i)自発痛と予後:自発痛のあるものの5年粗生存率は23.7%,ないものは32.2%で自発痛のあるものの予後は悪い.(ii)顔神麻痺と予後:顔神麻痺を伴うものの5年粗生存率は20.6%ないもの35.4%で,顔神麻痺を伴うものの予後は悪い.6) 組織像と予後:耳下腺悪性腫瘍全体の5年生存率は頭頸部腫瘍領域に於いて下位に位する.5年粗生存率はsquamous cell carcinomaが0%で最も悪く,adenocarcinomaが全体として25%,adenoid cystic carcinoma 50%, malignant mixed tumor 66.7%であつた.7) 浸潤度と予後:組織学的な浸潤度と予後との関連性を5年粗生存率で見ると,浸潤度αでは40%βでは25%,γでは0%となつた.従つて,耳下腺悪性腫瘍の治療にあたつては,唾影法の実技の熟練性,読影の完全性が要求されると共に,超音波診断その他の補助診断を駆使し,早期診断法の確立を急ぐべきである.又転移を促進する組織診や不完全剔出は厳にいましむべきである.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文