モルモット正円窓長期電極法の信頼性に関する電気生理学的および病理組織学的研究
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概要
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目的蝸牛電位を記録するためにモルモットの正円窓に長期電極を装着し,この正円窓長期久電極動物の信頼性について,電気生理学的および病理組織学的に検討することにある.2実験法体重400〜500gのバートレイ系モルモット33匹を用い,Nenbutalで腹腔内麻酔した.電極は直径100μのエナメル被覆銀線を用い先端を熱して直径約400μの球状にした.この部分から末端に向つて約8mmのところから約3cmにわたつて直径80μのエナメル被覆ステンレス鋼線で補強するために2本の線を並べてAralditeで固着した.同時に球部と末端の部分を除いた全てをAralditeで被覆し,特に骨胞腔に入る先端の部分に弾力をもたせるように注意した.電極端子はカラー注射針の針基部を利用して作製し,その中心孔にU字状の銅線を入れて底部をAralditeで固着した.その側面には電極の末端を通すための側孔を開けておいた.この端子を電極挿入手術の数日前に,動物頭頂部骨面にAralditeで接着した.電極挿入手術:全身麻酔下に骨胞に二つの孔を開け,その一つはやや大きく,正円窓を観察するためのものであり,もう一つはやや小さく,電極を通すためのものである.大きな方の孔から手術用顕微鏡で観察しながら,マニプレータを胴いて電極を小さな方の孔から挿入して,電極先端を正円窓骨縁に装着し,さらに電極を進めて骨胞腔内で電極が弓状にたわむようにした.このたわみが動物が成長しても電極先端と正円窓との密着を保つ役割をした.電極は歯科用セメントで骨胞骨壁に固着し,電極末端は筋肉下を通して頭頂部に導き,端子の銅線にハンダ付けした.このようにして作製した長期電極動物は,木箱に一匹ずつ飼い,感染と外傷を防いだ.CMの測定は1KHzと4KHzのintensity functionと100Hzから16KHzまでの14種の純音のthresholdについて行った.病理組織学的検索は,生理食塩水で生体洗滌してから,ウイットマーク液で固定し,ヘマトキシリンエオジン重染色を行つて観察した.3実験成綾33匹に長期電極を装着して,2匹は正円窓膜に穿孔を来しCMの誘導に失敗したが,31匹で成功し,電位観察用の20匹で10週間以上電位を測定できたもの15匹,うち電位が安定していたもの11匹で,最長35週間安定した電位を誘導できた.残り11匹は電極装着手術後種々の期間をおいて電極装着による病理組織学豹変化を検討するために用いた.電極装着後間もない時期には,蝸牛電位は一過性に低下し,thresholdも一過性に上昇する.これは中耳炎による滲出液貯留のためにおこる伝音性難聴と,電極先端と生体間との短絡形成とが原因である.この中耳炎は術後3週以内に消失し,その結果電位は安定する,術後5週目頃から,電極先端の周囲に正円窓膜の鼓室側上皮が延びてきて,電極先端と正円窓膜との密着が強化されることが病理組織学的検索で明らかになつた.以上の結果から,この方法による正円窓長期電極動物は種々の聴覚生理学的研究に応用できるものと考える.