Nitrogen Mustard-N-Oxideの関する電子顕微鏡的観察
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概要
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研究目的:内耳性難聴の病因となるいろいろな聴器毒のうちに,最近,Nitrogen Mustarδがあらたに加えられ,感覚細胞に対するその聴器毒性が光顕的に明らかにされたので,著者はNitrogenMustard系に属するNltrogen Mustard一N-Oxide(NMO商品名Nitromin)の聴器感覚細胞障害過程の微細構造,とくにその初発病変について電顕的な検索を行ない,本剤の聴器毒性の侵襲機転を解明しようと計画して本実験を行なつた.実験方法:実験動物には成熟モルモツトを用い,これを対照群,NMO10mg/kg腹腔内注射群,およびNMO20mg/kg腹腔内注射群にわけ,注射後24-48時間に蝸牛を取り出し,冷3.8%glutaraldehyde液とMillonig溶液(1%OSO4)で固定したあと,冷ethanol系列により脱水,合成樹脂包埋法(Luft法)に準じて包埋した.さらに蝸牛軸および回転毎に細分割し,再包埋を行なつた.LKBultrotomeにて薄切切片を作成し,酢酸ウラソ染色と鉛染色(Reynold法)を施した後,その電顕像を観察した.実験結果:NMOによる影響はラセソ器の外毛細胞に初発し,しかもその初発病変は,毛細胞の中軸部小胞体系ならびに形質膜下小胞体系の両者にみられ,小胞体の量的増加と渦巻状ないし同心円状の集合像,あるいは層状配列などの形態的変化を示し,さらに小胞体の変性と思われる索状構造物が出現するようになる.病変がさらに進むと,外毛細胞体の萎縮,蓋板の細胞質内への入り込み像,あるいはcuticula free areaから胞体の膨隆,小胞体の変性したと思われる線状構造物,Deiters細胞の膨化およびその変性像などがみられ,しかもこれらの変化は蝸牛底側により強く現われ,蝸牛頂側においては軽い.Mitochondriaの変化は中軸部小胞体系への移行としての配列異常が認められる程度で,構造上には初期変化はみられない.ただし病変の強い蝸牛底側に移るにつれてmitechondriaの膨化,空胞化,cristaeの不明瞭化などが観察されるが,これらの変化は全回転を通じて,わずかに部分的にしかみられないことより,NMOによるmitochondriaに対する直接の影響は少ないものと思われる.このことはNMOが同じ聴器毒であつても,mitochondriaに初発病変の現われるamino g1ucoside系薬剤とは異なつた侵襲機転を示すものと思われる.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文