扁桃の免疫学的研究 : 扁摘前後における免疫グロブリンの動態
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概要
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近年, 日蓋扁桃を胸腺や鳥類の Fabricius 嚢と同様に, 中枢性リンパ組織とみなす学説が唱えられている. ことに, 哺乳類に於いて, 扁桃は機能的に鳥類の Fabricius 嚢に匹敵するもの, すなわち, 体液性抗体産生に関与する中枢性リンパ組織と考えられている.そこで, 扁桃の免疫学的機能を探る目的で, 慢扁例, 病感例につい♦て 扁摘前後にわたる血清免疫グロブリン (以下 Igと略す) の定量, 濾紙電気泳動法および免疫電気泳動法を行ない, 次の結果をえた。又対照として慢性中耳炎, 慢性副鼻腔炎 (以下慢中•慢副例と略す) についても同機な検索を行ない比較検討した.方法: Igの定量方法としてIg Aは沈降反応をIg Gは抗グロブリン抑制試験をIg Mは Hyland 社製の Immunoplate を使用した.成績ならびに結論:1. 血滴Igの定量(i) 慢扁例では3種のIgが共に術前と比較して術後漸減の傾向を示した.(ii) 対照例として慢中•慢副例も同様の傾向を示した.(iii) 病感例では3種のIgが共に術前と比較して術後漸増の傾向を示した.(小括) 血清Igの定量からは, 扁桃の免疫機能を積極的に示唆する成績はえられなかつた.2. 濾紙電気泳動成績(1) 血清慢扁例, 病感例共に術前と比較して, 術後にAlは軽度増加, γ-glは減少の傾向がみられた. (小括) しかしこれらの変動は, 一般慢性炎症時における変化とほゞ同様であることからして, 血清濾紙電気泳動成績からは, 扁桃の免疫機能を積極的に示唆する成績はえられなかつたじ(2) 扁桃抽出液(i) 慢扁例, 病感例ともに血清とは異なり, Al位成分に比較してγ-gl位成分が多くみとめられた.まだ両群間の比較では, 病感例にてγ-gl位成分がやや多い傾向がみられた.(小括) 扁桃抽出液の濾紙電気泳動成績からは, 扁桃の免疫機能を支持する成績がえられた.3. 免疫電気泳動成績(i) 血清では扁桃摘除前後にわたつて, 慢扁例, 病感例間には, 出現免疫沈降線のコントラストおよび数の相異はみられない(ii) 扁桃抽出液では慢扁例, 病感例共に, 出現した免疫沈降線は数本で, Al, トランスフェリン, IgA, IgGなどである.(iii) 両群共にIgM成分がみられなかつた.(小括) 免疫電気泳動成績からは, 扁桃の免疫機能を積極的に示唆する成績はえられなかつた.総括: 以上の成績から, 血清Igおよび蛋白分画の面からは, 成人例では扁桃の免疫機能を重視するよりも, むしろ, 一般慢性炎症巣の一つとしての面がクローズアップされるのに対して, 組織の蛋白分画からみると, 扁桃の免疫学的意義も否定できない.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文