遅延側音効果に関する研究
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概要
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1950年 Lee により観察, 発表された遅延側音効果は, 其後多くの研究者によつて, 詐病看破法, 他覚的聴力検査法, 聴機構解明上の一手段として研究され, 多くの報告がなされている.本実験では, まだ行なわれていない日本語について, 遅延側音効果を決定する諸因子の影響を観察し, 聴覚機構解明上の何らかの手掛りを得ることを目的とした. その為, 打鍵, 器楽演奏 (バイオリン, 電気ピアノ) 等による, 遅延側音効果に関しても実験を試みた.遅延時間は磁気録音器の, 録音及び再生ヘツド間の間隔を利用し, テープ速度を変えて作つた.その結果は次の如くである.1) 1から50迄の暗誦による各遅延時間ごとの全平均値をとつて見ると, 最大時間延長率は遅延時間0.15秒の点に見られる. 又各暗誦の速さについて見ると, 最大時間延長率を示す遅延時間は, 暗誦の速さが速くなるにつれて, 短い方に移行する. 但し暗誦の時間が45秒と長い場合は, 時間延長率は非常に小さく, 遅延時間0.48秒ではいずれの暗誦時間に於ても時間延長率は小さい.尚正常会話速に近い早さと思われる暗誦時間20秒の場合は, 遅延時間0.24秒で最大遅延効果を示す.2) 暗誦と朗読では暗誦の方が遅延効果が大きく, 暗誦の中でも記憶への依存度の大きいと思われるものほど時間延長率が大きい.3) 側音音圧の増大により, 時間延長率が増大する. しかし個人差が大きい.4) 側音音圧の増大により発声強度が増大する.5) 遅延側音の周波数帯域が広くなると, 時間延長率が大となり, 狭くなると時間延長率が小さくなる, 特に会話音域の周波数帯域の存否がこれを大きく左右する.6) 鍵打時, 1000の正絃波を側音として被検者に与えた場合, 語音に於ける場合と同様, 遅延効果が認められる. 鍵を打つ間隔の長い場合は, 最大時間延長率を示す遅延時間は, 0.48秒に於ても見られた.7) 器楽による場合. 楽器ほバイオリン及び電気ピアノを使用した.演奏の速さは, 平均一音符の長さで表した. 平均一音符の長さは, 同時に奏された音はまとめて一つの音符として数え, 演奏時間を, その中に含まれた音符の数で除したものである.器楽演奏に於ても, 平均一音符の長さにより, 最大時間延長率を示す遅延時間は異る. 即ち, 平均一音符の長さが短い場合は, 最大時間延長率を示す遅延時間は短く, 平均一音符の長さの長い場合は, 遅延時間0.48秒に於ても最大時間延長率を示す.8) 器楽演奏に於ても, 遅延側音音圧の増大により, 時間延長率は増大する.以上のことから, 遅延側音効果の大小には, 遅延時間と側音音圧を含めての, 側音の品質が大きな要素となつていることがわかつた. この要素の存在は, 遅延側音がただ単なる妨害音として作用した為, この効果が起るのではなくて, 聴覚機構の故障の為と考えることが妥当であることを教えてくれる. 又これらのいずれもが, 詐病看破法としで使用し得ること, 及び鍵打の場合は, 側音に各種の純音を用い, 遅延時間と打鍵のリズムとを適当に決める事によつて, 他覚的聴覚検査への応用の可能性の存在を確認した.
著者
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