鼻咽腔炎と線維素溶解現象 : 堀口申作教授開講25週年記念論文
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概要
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近年急速な進歩と発展を見た生化学的ならびに生理学的研究法のなかで, 最近研究者の関心を集めている線維素溶解現象は基礎医学にとどまらず臨床各分野で注目されるようになつた. 線維素溶解現象は狭義の血液凝固系第4相にあたる Fibrinolysis をさすもので一般に血中ならびに組織中に存在する Fibrinolysin (Plasmin と呼ばれる). により cross-linked Fibrin がMetafibrin と Fibrinolysopeptideに加水分解され溶解する現象を総称するものである. この現象は生理的には血液の循環状態を正常に保つ目的として, またその修復機転において生体に重要な mechanism であり, その主体となる Plasmin level は自律神経により control されている. したがつて生体に stress や shock が加わつたり, 血栓症やアレルギー. その他種々の状態におい♦て Plasmin level ま高まり線維素溶解能は亢進すると考へられている.一方最近鼻咽腔炎は自律神経機構と極めて密接な関係を有することが教室における各種研究で明白になり全身的に大きな影響を持つものであることがわかつた. そこで鼻咽腔炎及びその治療が, 血液の線維素溶解能にどのような影響を及ぼし, さらに自律神経系といかに関係しているかを調べてみた. 両者の関係を明確にするために, 1) 鼻咽腔炎患者の血中線溶能 (鼻咽腔を刺激する前において採血したもの) 2) 鼻咽腔炎患者の鼻咽控を刺激した後の線溶能 3) 鼻咽腔炎治療前, 治療後における線溶能の比較, 4) 鼻咽腔刺激による指尖血管運動反射と線溶能との関係, 5) さらに自律神経薬物負荷による線溶能の変化を観察した. そして次のようなことがわかつた.1) 健康人での線溶能値は170分で線溶亢進群の急性鼻咽腔炎と低下群の慢性鼻咽腔炎とに分類され, その中間に悪急性群がある.2) 治療前鼻咽腔炎患者の鼻咽腔を刺激すると刺激後15分に活性は著明に亢進する.3) 治療により炎症が消退するとその変化率も少なくなり, 生理的範囲に復帰する.4) 線溶能と指尖血行動態を同時に平行して観察した結果, 線溶能の正常化と指尖血管運動反射ならびに自律神経不安定状態の鎮静は共に平行関係を保持して推移する.5) 自律神経薬物負荷時線溶系の動態を観察すると, 線溶活性のメカニズムは cholinergic なものにcontrol されているように考へられる.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文