耳管狭窄症と耳鳴
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概要
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伝音性耳鳴の代表例として耳管狭窄症に伴なう耳鳴をとりあげ, その臨床像を他の型の耳鳴の臨床像と比較するとともに, 耳鳴の成因について検討を加えた.1. 症例は過去10年間に著者が耳管狭窄症と診断した676例 (900耳) である.2. 耳管性耳鳴の発現率は44.8%であつた.3. 耳管狭窄症患者の初診時の主訴は難聴が最も多く(42.5%), 耳鳴は耳閉塞感に次いで第3位 (27.8%) であつた.4. 両側性耳鳴に比して一側性耳鳴が多かつた.5. 耳管性耳鳴の年令分布は19才以下に少なく, 20才代から50才代までほぼ同じ割合を示していた.6. 耳管性耳鳴は徐々に感ぜられるようになつたものに比して, 急激に起こつたものが圧倒的に多かつた.7. 絶対数では持続性耳鳴が多かつたが, 耳管性耳鳴において断続性耳鳴の占める比率は他の型の耳鳴に比して最も多かつた.8. 耳管狭窄症の発症と同時に耳鳴が起こつたものが79.6%で殆んどあつた.9. 耳管性耳鳴の音色は他の型の耳鳴に比して多少の差がみられ, 低音にも関係が深かつた.10. 貯溜液の有無と耳管性耳鳴の発現率との間には著明な関係は認められなかつた.11. 耳管狭窄症における難聴の自覚率は77.3%で耳鳴よりも遙かに多かつた.12. 耳管狭窄症では難聴が耳鳴に先行するものが最も多く (65.6%), 難聴より耳鳴が先行するとみられたものは15.1%に過ぎなかつた.13. 耳管性耳鳴は伝音性耳鳴が最も多かつた(51.5%)が, 無難聴性耳鳴とみられるものも16.2%に存在した.14. 他の型の耳鳴に比して耳管性耳鳴の治療効果は最高であつた. 耳管性耳鳴に対する治療法の中では, 薬物療法よりも局所療法の方が有効であつた. 鼓膜穿刺, 耳管通気法, あるいは耳管通気法+鼓膜マツサージの3種の局所療法の間の有効率には大差はなかつた.15. 以上の臨床像を, 耳管狭窄症の病態生理に関する文献を参考にして検討し, 耳管性耳鳴の成因としては, 音源 (血管あるいは耳管線毛) より発する音が, 陰圧による伝音系の共鳴状態の変化によつて, 増強してきこえるようになつたものであるとする伝音環境異常説が最もわかり易いとした.