間性山羊の脳下垂体前葉に関する研究
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概要
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遺伝的な間性(〓)山羊の脳下垂体前葉(AP)を未熟期,成熟期に亘り正常♀,♂,〓と比較しながら細胞学的,生理学的並に組織化学的に研究した。(1) 脳下垂体一生体重指数に於ては全腺に就ても前葉のみに就ても性による差がなかつた。(2) APの細胞学的研究によると,〓ではα,β,γ細胞の何れも正常性のものより大きかつた。又α細胞の相対値は正常性のものと略々同等或は少しく高い位であるに対し,β細胞では〓で著しく低かつた。且つβ細胞の相対値は正常性のものでは性成熟の頃迄増加するが,〓では未熟期のまゝで低かつた。〓でβ細胞の相対値が最も高く,〓,〓共一般にα,βの顆粒蓄積の度が高かつた。(3) 〓では顆粒に富んだ特殊の巨大細胞が性成熟期に当る頃より相当数の小葉中に出現した。之等は未熟期のものには存在しない。この細胞は生殖腺の異常の甚しいもの程多く且つ大きかつた。又この細胞は諸種の細胞学的見地よりβ細胞性のものと考えられ,性成熟後に当るものでは大きさ数共余り異ならなかつた。〓では去勢細胞もかゝる特殊細胞も生じなかつた。(4) 成熟山羊のAPの生殖腺刺戟ホルモン(FSH並にLH)の力価を性別に幼若ラツトを用いて検した。FSHに於ては〓で最も高く,〓が之に続いた。〓の中では生殖腺の異常の甚しいもの程高かつた。〓♀型はやゝ低く正常♀と略々同等であつた。正常♂は最も低価を示した。未熟な〓中型山羊のAPの力価は極めて低く対照区と有意の差がない位であつた。LHに於ても性による反応差はFSHの場合と同様の傾向を示した。(5) 銀反応とアルカル性フオスフアターゼ反応を調べたが,両反応共細胞による反応強度に一般に差が見られα細胞で最も強く,β細胞で之に次ぎ,γ細胞で最も弱かつた。特殊巨大β細胞では弱くてγ細胞に近かつた。性による差も両反応共見られたが,特に後者で強く現れ,正常♀,♂で強く〓では〓と略々同等で弱かつた。未熟のものでは〓も正常♀,♂のものと同等で成熟〓の場合より強い位であつた。之等の組織化学的研究の成績は〓及び〓のAPでは細胞活動が正常のものより弱いことを暗示している。(6) 山羊のAPに見られる之等の異常の成因としては断定的でないが,遺伝的な細胞転化の欠陷と生殖腺の機能不全によるAP細胞の顆粒放出活動の低下によるのではないかと考察した。擱筆に当り終始御懇篤な御指導,御鞭撻,御校閲を頂いた恩師佐々木清綱教授,増井清名誉教授,研究方法に就て御指導御忠言を頂いた星冬四郎教授,加藤嘉太郎教授,御忠言を頂いた鈴木善祐助教授,更に又研究遂行に当り終始御協力を頂いた近藤恭司氏,清水寛一氏,研究材料の供与に御使宜を御与え下さつた飼育者各位特に根岸八朗氏,宮嶋英一氏,矢崎次郎氏,山下潔氏,浅川淳一氏,小林義彰氏,大野時三九氏,柏崎誠司氏,梅田八主明氏,更に教室での飼育に当られた教室員,学生各位に対し深謝の意を表する。尚最近の文献の恵与を受けた米国のC. W. TURNER博士,J. M. WOLFE博士,O. N. EATON博士,E. W.DEMPSEY博士並にG. B. WISLOCKI博士に対しても茲に記して厚く御礼申上げる。尚本研究は文部省科学研究費によるものである。