アンボセリ国立公園「格下げ」騒動に見るケニア野生生物保全の現在
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
2005年9月29日, ケニアではアンボセリ国立公園の国立保護区への「格下げ」が大統領により決定された。この決定は当初, 2ヵ月後に迫った国民投票の票集めとして批判を集めたが, 貴重な野生生物の保全を県議会が担うことに反対するNGOの参入に伴い論点は野生生物保全へと移行, 裁判にまで発展した。この過程で,「格下げ」が国民投票の票狙いの政治工作であること, 法的手続きが違法であることは早い段階からほぼ明白だった。一方,「格下げ」に伴う県議会による保護区管理の是非をめぐっては, NGOを中心とする反対派も県議会などの賛成派も強硬だった。「格下げ」は公園保護区の管理主体や観光収入に大変化をもたらすので賛成・反対両派の間で議論となったが, 法廷闘争の開始で裁判所以外での議論が停滞し, 生産的な対話はなされなかった。今回の騒動から浮かび上がりつつも, NGOと県議会の激しい対立の影響で議論されなかった論点としては, 保全に伴う便益を受け取るべき「地域住民」と「被害者」のズレの問題, 公園・保護区管理の担い手を決める際の「正統性の付与」から地域住民が除外されてきた問題, がある。そうした論点を考えるには, 欧米の先行研究だけでなく日本の環境社会学などを参照することも必要と思われる。