狩猟採集民バカの植物名と利用法に関する知識の個人差
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概要
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本稿の目的は, カメルーン東南部に暮らす狩猟採集民バカの植物知識を事例にこれまで均質的なものとして扱われることが多かった「民俗知識」の個人差に注目することによって,「民俗知識」の特性を検討し, 伝統社会に暮らす人々が自然との間に結ぶ具体的な関係の一形態を提示することである。植物名や利用法ごとに人々の知識の共有度を比較した結果, 成人後期のバカの間では植物名や食用, 建材・物質文化に関する知識の多くが共有されていたが, 薬に関する知識の多くは共有されていないことが明らかになった。また, バカは薬の知識を本人やその子供などが病気になった際に, おもに両親や兄弟から教わっており, 薬の知識には本人やその近親の病歴が反映されていることが示唆された。植物名の共有度の高さは, バカの生活や文化における植物の重要性と社会生活を行う際に植物名を共有する必要性の高さを反映していると考えられる。食用植物や建材・物質文化に関する知識が共有されやすい理由は, 味や材質形態などといった植物の素材がバカの間で共通した評価を得やすいことと, これらに利用される植物が食物分配や道具類の共有などの社会生活において頻繁に利用されるため知識を共有する機会が多いことが考えられる。一方, 薬に関する知識が共有されにくいのは, 植物の素材が薬効として共通した評価を得がたいことと, 薬の利用がおもに家族内に限られるため社会生活において薬を共有する機会が少ないからだと考えられる。このように「民俗知識」の個人差は, 植物の素材に対する個人の評価と文化として知識を共有する機会の多寡が影響していることが考えられる。
著者
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