クロツグミTurdus cardis のさえずりの構造とレパートリーおよびさえずりによる個体識別の有効性
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概要
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本論文の目的は, これまで科学的に分析されたことのないクロツグミのさえずりについて, その音響学的構造や個体ごとのレパートリーを明らかにすることである。また第二の目的は, さえずりによる個体識別の有効性を検証することである。1994年および1996年の4〜8月に石川県金沢市の海岸保安林において, 色足環で個体識別した14個体のクロツグミ雄のさえずりを録音した。フルソングの継続時間は平均2.85±0.38 (SD) 秒であり, 前半のホィッスル部 (1.8〜3.4 kHz) と後半のトリル部 (3.4〜8.0 kHz) に分けられた。トリル部はしばしば省かれる一方, 他の雄が接近した際にトリルだけで数分間鳴き続けることもあった。独身雄は雌が接近した際にも連続したトリルを発した。1個体が持つ全ホィッスル句は平均20.1±7.0 (SD) 種類であった。そのうち第一節に用いられるホィッスル句は平均11.1±4.9 (SD) 種類であった。トリル句は, サンプルとして300句が集められた7雄の平均で70.3±24.7 (SD) 種類であった。ホィッスル句の共有率は近隣個体間で比較的高く, なわばりの遠い個体間では比較的低かったが, トリル句の共有率と距離との関係は見出せなかった。ソングの第一節に出現するホィッスル句の種類は繁殖期間を通して大きく変化せず, 使用頻度上位の句の組み合わせは個体ごとに固有のものであった。渡来当初のホィッスルレパートリーが他個体とまったく異なった1個体のみ, そのレパートリーを4ヵ月で大きく変化させ, 最終的に当地に共通した句のみを使用するようになった。ソングの第一節に用いられるホィッスル句は, 個体ごとのレパートリーサイズが適度に大きく, 個体間でレパートリーが一致しないこと, 短時間で全レパートリーが確認できること, 周波数変化にさまざまなパターンがあり, 人の耳で聞き分けやすいこと, 複数名による野外調査で聞き分けによる誤認が一度もなかったことなどから, この部分を聞き分けてそのレパートリーから個体識別する方法は一定の有効性を持つといえる。
著者
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