成人期近代日本人における大腿骨の加齢変化について
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概要
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本研究では,成人期近代日本人(明治・大正期没)の大腿骨を用いて,外形ならびに骨幹中央部の内部断面形状を計測し,特に骨幹部における外形拡大,髄腔の拡張,緻密骨中の空隙の増大,これら三点の加齢変化について年齢横断的調査を実施した。資料には男性77体(20〜81歳),女性39体(22〜74歳)の右大腿骨を使用した。内部断面計測に際しては高精細のマイクロCT装置を導入した。解析においてはサンプルを三つの年齢群(青壮年,20〜49歳;熟年,50〜64歳;老年,65歳以上)に区分し,これらの年齢群間で計測値の差の有意性を統計学的に検定した(二標本t検定,Mann-WhitneyのU検定)。その結果,男女に共通して,熟年・老年の骨体中央矢状径・骨体中央横径・外形断面積は青壮年と比較して有意差がなく,従って高齢化に伴う骨幹部外形の拡大パターンは本集団において認められなかった。男性の髄腔部断面積では熟年・老年と青壮年の間で有意差が見られなかった(ただし加齢に伴う緩やかな拡張パターンが認められた)。一方,女性の髄腔部断面積では,高齢な年齢群ほどより大きい傾向があり,20歳代中頃から40歳代までほぼ一定であったが50歳代以降から急激に拡張していくパターンが認められ,閉経に伴う女性ホルモンの分泌減少との関連性が窺がわれた。緻密骨中の空隙に関しては,男女とも高齢個体ほど空隙の断面積が大きい傾向があり,空隙化の著しい個体は特に30歳代中頃以降の女性において見受けられた。本研究では,骨幹内部の力学的脆弱化を補う外形拡大の機能適応は示唆されず,また,男性に比して女性の骨幹部は加齢に伴う弱体化の危険性が大きいことが改めて示された。
- 日本人類学会の論文
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