中世日本人上顎洞の古病理学的研究
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概要
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本研究は鎌倉市由比ヶ浜中世集団墓地遺跡〈No. 372〉からの出土人骨について,上顎洞内面を観察して骨壁状態の病理形態学的分類を行い,さらに出現していた骨病変の頻度について分析を行ったものである。上顎骨の左右あわせて809個のうち,骨吸収,骨増殖など合わせて56.1%の上顎洞内の骨壁で骨病変が認められた。骨吸収を示す小窩が最も多く,次いで骨増殖を示す棘状のものが多かった。また残存するすべての骨壁の数2315面のうち,異常所見がある骨壁は全ての面を合わせて39.6%であり,最も頻度が高かったのは洞底面で57.0%であった。これらの骨病変のうち,重度の小窩は急性副鼻腔炎,骨増殖は慢性副鼻腔炎,孔は歯性上顎洞炎であると考えられ,急性および慢性副鼻腔炎は生活環境が影響するものと考えられるため,中世期に都市として発展した鎌倉の生活環境の一面を反映していると推測される。日本人の急性および慢性副鼻腔炎罹患者数は,様々な条件が重なって高頻度である,ということは耳鼻咽喉科領域でこれまでに述べられてきたが,中世日本人古人骨においても確認された。