乳腺における機械刺激とATP放出
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概要
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ATPは普遍的な細胞外情報伝達物質として認識されつつあるが,その放出には機械的な刺激が関与する場合が多く,メカノシグナリングにおいて重要な役割を担っていると考えられる.授乳期の乳腺では分泌上皮の袋である腺胞のまわりを筋上皮が取り囲んでおり,オキシトシンによって収縮することで射乳が起こる.この系での生理的な機械刺激としては,[1]オキシトシンによる筋上皮の収縮,[2]ミルクによる腺胞の膨張等が考えられる.[1]に関しては,分泌上皮と筋上皮細胞の共培養系を作成しオキシトシンによって筋上皮細胞を収縮させたとき,分泌上皮細胞からATPが放出されCa2+波が伝播すること;[2]に関しては,薄いシリコンゴム膜上に細胞を培養し伸展刺激を与えたとき,ATPの放出とCa2+の上昇が刺激強度依存的に起こること,によってそれぞれATP放出の機械刺激となることを示した.放出されたATPは分泌上皮細胞のP2Y2型ATP受容体および筋上皮細胞のP2Y1にオートクライン/パラクライン作用しミルクの分泌を制御していると考えられる.とくに,筋上皮細胞のP2Y1の活性化はオキシトシン受容体を協調的に増強し,オキシトシンに対する感受性を1桁上げることから,ミルクの満たされた腺胞のみが血中濃度のオキシトシンによって収縮できるという機構の存在を示唆した.ATP放出経路に関しては機械刺激による一過性の放出以外に自発性の持続的放出があり,それは細胞外Ca2+-free溶液中で増強した.Luciferin-Luciferase反応を用いた放出ATPの定量,薬理学的処理などの結果,少なくとも2種以上のATP放出経路の存在が示唆された.細胞外ATPシグナリングにおけるATP放出経路はいわば細胞内Ca2+シグナリングにおけるCa2+チャネルに相当し,その経路,制御機構は多彩であると考えられる.
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