家蠶白卵の遺傳
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1. 白卵の遺傳子 w は宇田氏 (1932) によつて設定せられ, その正常因子 W と共に卵色のみならず複眼色, 神經球等の色素形成に關與する1對の多面的發現因子である。2. 白卵色と白眼色とは同一の遺傳子で起るにも拘らず, 黒卵黒眼種と交雜すると眼色のみは普通のメンデル單性遺傳を示すが, 卵色に至つては一見異常な分離を示す, 其の主要點を擧ぐれば,a) 黒卵を雌とし, 白卵を雄とすれば F1 は黒卵であるが, 白卵を雌とすると中間色を呈する。即ち母性的ではない。b) F2 に於ては上記何れの交配に於ても優性なる黒卵を生ずる。c) F3 に於ては黒卵, 中間色卵, 白卵の3種の蛾區を生ずる外, 中間色と白色を等分に含む混合卵蛾區を生ずる。その理論比は黒卵區12:中間色卵區1:白卵區1:混合卵區2の割合である。d) 逆交雜に於ては F1 (黒卵×白卵或はその反交雜) を雌とすれば雄の如何を問はず常に黒卵を生じ, 白卵を雌とし F1 と逆交雜すれば中間色卵と白卵を等分に含む混合卵の蛾區のみを生ず。3. この白卵色の異常なる遺傳の原因に就ては已に著者並に金 (1937) 及び吉川(1937) の試みたる生殖巣移植の實驗に, その解釋を求むることが出來る。即ち白卵白眼性蠶兒に黒卵黒眼性蠶兒の生殖巣を移植すれば, これより蛾の複眼に黒色々素を形成せしむるホルモン樣物質を生ずるのみならず, この物質は母體より卵原形質に入り次代の卵色を決定するものである。而して白卵白眼種はこの物質を分泌しない。この假説に從へば黒卵を雌とし白卵を雄とせる F1 が黒卵であるは當然であり, 白卵を雌とし黒卵を雄とすれば, 白卵よりはホルモンを傳へず, 黒卵からの精核には恐らくこの物質が存在せぬか, あるとしても白卵を黒卵とするに至らない。從つて産卵後暫時は白卵のまゝで居るが, この F1 の胚子の因子式は Ww なるが故に, この胚子の生殖巣から再び新にホルモンが分泌され卵内に分散し漿液膜に着色を促す, しかしその量少き爲め中間色以上に濃くはならぬ。又白卵 w の雌に F1 (Ww) を逆交配した場合に, 精核には二種あり即ち W と w であるが W により受精されたる白卵は前同樣の理由にて中間色と變り, w にて受精されたものは白卵のまゝで止る, 斯くて混合卵の蛾區が生ずる理由は明瞭である。