芥川龍之介「湖南の扇」の虚と実 : 魯迅「薬」をも視野に入れて
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿は芥川龍之介「湖南の扇」をめぐって、作品の構築における体験と虚構化の働きを検証しつつ、玉蘭の物語を中心に作品の成立と方法を探り、さらに魯迅の「薬」との対比を通じて作品の位相を考えるものである。結論としては、「湖南の扇」は、作品世界の構築に作者の中国旅行の体験や見聞が生かされていつつも、基本的に体験の再構成を含む虚構化の方法による小説にほかならない。作品のモチーフは冒頭の命題というよりクライマックスのシーンにあり、作品世界は「美しい歯にビスケットの一片」という、作者の原光景ともいえる構図を原点に形成され、虚構の「事件」が体験的現実として描かれているところに作品の方法があるが、作品の「出来損なひ」はこの方法に起因するものであるといわざるをえない。そして、魯迅「薬」との対比を通じてみると、「迷信」として批判されるはずの人血饅頭の話をロマンチックな物語、「情熱の女」の神話に作り替えられたところに、芥川のロマンチシズムへの志向と「支那」的生命力に寄せる憧れが見て取れる。
- 国際日本文化研究センターの論文
- 2002-02-28
国際日本文化研究センター | 論文
- 興行としての宣教--G・オルチンによる幻燈伝道をめぐって (特集 近代東アジア文化とプロテスタント宣教師--その研究と展望)
- 「未亡人」の家--日本語文学と漱石の『こころ』
- 日清・日露両戦役間の日本におけるドイツ思想・文化受容の一面--総合雑誌「太陽」掲載の樗牛・嘲風・鴎外の言説を中心に (共同研究報告 「総合雑誌『太陽』の総合的研究」中間報告-その2-)
- 「満州」幻想の成立過程--いわゆる「特殊感情」について
- 《三条本洛中洛外図》の人脈について