夏目漱石の「私の個人主義」から見出す社会福祉思想
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概要
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明治時代の文豪夏目漱石が数々の作品を残している中で、「個人主義」を実践するためにどうすればいいのかについて語っている「私の個人主義」という作品がある。一見福祉と全く関係がないように見えるが、そこには社会福祉思想が潜んでいる。 「私の個人主義」は、漱石が大正3年に学習院で行った講演を筆記したもので、漱石48歳の時の作品である。漱石は、文章の中で個人主義を実践するためには三つの点が必要だと書いている。 1「自己の個性の発展を遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならない。」 2「自己の所有している権利を行使しようと思うならば、それに付随している義務というものを心得なければならない。」 3「自己が全力を示そうと願うならば、それに伴う責任を重んじなければならない。」なお、本稿は1と2について論じることとする。 アメリカの社会福祉学者であるF・バイステックは、社会福祉分野で個別援助による倫理的な実践原則を7つ述べているが、その中の一つに「個別化の原則」がある。そこでは人間は、具体的には個々の名前を有する個人として存在するとされている。したがって「人間の尊厳、個人の尊重」とは、具体的には「個別化」された人間を最大限に尊重すると同時に、尊厳を認めることでなければならない。漱石の「私の個人主義」の一つの論点と全く一致している、といっても過言ではない。 文学思想においても福祉思想においても共通しているところは、自分を尊重するだけでは他人を尊重しない限り「個人主義」というものが成り立たないことがわかる。 本稿は、夏目漱石の「私の個人主義」から見出す福祉思想を論じることで、文学思想と福祉思想との関連性を検証し、「私の個人主義」が主張した思想に、「社会福祉思想」を見出すことが出来ることを検討する。
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